Apple-achia, Amazon-ia, Fortress Facebook and Google Earth by David Parkins in the Economist
Apple-achia, Amazon-ia, Fortress Facebook and Google Earth by David Parkins in the Economist / dullhunk

盛者必衰。未だかつて滅びなかった帝国は存在しない。

船長ジョブズの死後、Appleのほころびは思ったよりも早く見えてきた。伝統の黄金比を無視したプロダクトデザインに、まったく使えないマップアプリとそれに対する謝罪、廉価版iPhoneなどのぶれたラインナップの噂。

たとえ今は世界一の企業であったとしても、その衰えは意外と早く訪れるのかもしれない。

長い目で見て、Appleがこれまでと同等のイノベーションを提供しつづけることが不可能なのは誰の目から見ても明らかだ。

だけどこれから目につくAppleの不手際を、ぜんぶジョブズ不在のせいにするのは早計だし誤解だろう。ジョブズだっていつも正しいことをやってきたわけじゃなく、たくさんの間違いを重ねてきたんだから。多くの失敗作の屍の上に、Appleの栄光の歴史があるのを忘れちゃいけない。

企画からデザインからなんもかんも、すべての方面で指揮を執っていたカリスマ船長亡き後、Appleが衰えるのは当然として、ティム・クックというバランスを取るのがうまそうな委員長タイプの秀才が後を継いだのには、僕らが思うよりも深い理由があるのだろう(まあ僕が勝手に見た目から判断しているだけだけど)。

クックは「ジョブズならどうするか?」というジョブズ思考を身につけた一番弟子だと言われているけれど、どうがんばったってジョブズにはなれないんだから、キャプテンがいない船としての航路に方向転換していかなければ生きのびることは難しいだろう。ジョブズが選びそうな航路を進んでいって、今まで通りライバル企業や障害を乗り越えられるとは限らない。

つまりはGoogleとの共存共栄しか道はないってことだ。誰が考えたって世界中のマップでGoogleに勝てるわけないんだし、他の多くの分野でもそう。

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僕は生まれてこのかたパソコンはMacintoshしか触ったことのない生粋の信者だけど、最近はGoogleに心を奪われることも多い。

GoogleにはAppleと同じ、少年の心を刺激するやんちゃな冒険心が感じられるからだ。

Appleのかつてのライバル『Microsoft』は、社名からしてわかるように、コンピュータオタクが作った、ビジネスに特化した優秀で真面目なカタブツっていうイメージだけだったけど、自由でクリエイティブなAppleを見て育ってきたGoogleやFacebookには、ジョブズの魂が宿っている気がする。

ついこの前までジョブズという強烈な個性に率いられていたAppleよりも、ジョブズの背中を追って自分たちだけで推進力を得てきたGoogleや他の企業のほうが、今やむしろジョブズに近いパワーを持っているのかもしれない。

まだMacintoshがミュージシャンやデザイナーなんかの一部の人にしか人気が無かった時代、Appleを支えていたのはPhotoshopやIllustratorというとんでもない大砲を提供してくれていた『Adobe』などのソフト会社だ。

『Samsung』なんかのハードの競合他社が優れたプロダクツをつくっても、まだ今のところジョナサン・アイブ率いるAppleの優位性は変わらない。だけど今後はもっともっとGoogleと組んでいかないと、音声検索とかマップとか、これから必須となる重要な分野で置いていかれてしまうだろう。

three-headed MacBook 2008
three-headed MacBook 2008 / blakespot
ギズモードの『アップルが本当に売っている唯一のモノ』という記事によれば、Appleが売っているのはエコシステムだという。

エコシステム、それは密に繋がり相互作用を生み出す、1度はまれば抜け出せなくなるシステムなのだ。ハード、ソフトという分け方はそこにはもうない。製品、アプリ、サービス、周辺機器、それら全てが分け隔てない一家族なのである。アップルは、その家族形成を他社よりも今の所より上手に行なっていると言える。__記事より引用

エコシステムってカッコよく言ってるけど、要はメーカーの「囲い込み」でしょ。iPhone、iPad、Mac、Apple TVが揃ってるとすっげー便利だから全部買いなさいよ、っていう。

たしかにAppleははなからそれを念頭に置いてるから、他よりスマートな連携ができてる。ビル・ゲイツがWindowsというソフトで世界を征服する以前から、ジョブズはハードでもソフトでもなく「デジタルによる革新的なライフスタイル」を売ろうとしていたんだから、一日の長があるのは当然だ。

ソニーにもその思想はあるんだろうけど、成功はしていないよね今のところ。

MBP_JobbyRoger
MBP_JobbyRoger / charliekwalker
いずれにせよ、今後しばらくの間、革新的なプロダクトが生まれる可能性は低いだろう。

iTVには期待しているけど、テレビのサイズとコストパフォーマンスの兼ね合いとか微妙な部分もある。テレビはそのままで、Apple TVを強化してiPhoneやiPadを組み合わせればじゅうぶんリビングも制覇できると思うんだけどな。

Googleグラスが騒がれてるけど、イノベーションと呼べるプロダクトになるのだろうか。技術革新の年表には刻まれるだろうけど、生活に食いこむ製品になるかは今のところ不透明だ。でもコンセプトはAppleと同じくらいワクワクするよね。

そう考えると、やっぱりジョブズってのはとてつもない才能だったんだなあ。

ジョブズは新しい製品を発明したことはないんだよね。彼はいつも見つけるだけ。人が目をつけないところに宝石を見つけて、とてつもない突進力でそれを磨きあげて、魔法でくるんで、世に放つ。人を使って。

学生の時にHPのバイトでスティーブ・ウォズニアックを見つけてコンピュータを作らせた。ゼロックスのパロアルト研究所ではGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を見つけて、そのままパクってMacintoshを作らせた。Appleをクビになってからはルーカスフィルムのコンピュータアニメ部門を見つけて、そこを買い取ってピクサーを設立した。Appleに戻ってからは、地下室でくすぶっていたジョナサン・アイブを見つけてiMacを作らせた。iPodやiPadだって、すでに他社が作っていたものを磨きあげただけだ。

そう考えると、Appleがどうこうと言うよりも、インターネット産業全体、あるいはデジタルが主軸となっている社会全体が、ジョブズの死によって、進化のスピードをゆるめていくのかもしれない。

ジョブズがいなかった頃の不遇の時代からMacintoshを使っていた身としては、現在のAppleの隆盛に対しては複雑な気持ちもある。

僕らが憧れたのは、ちょっと使いにくいけどコンピュータのくせにすっげークールなMacintoshと、本社に海賊旗を掲げてしまうようなやんちゃな子どもたちの集団だったAppleであって、シェアとか覇権とかを気にするつまらない企業ではない。

Appleが船長を失って海賊をやめたんなら、海軍Googleにすりよるべきだろう。第二のジョブズは、当分現れそうもないのだから。