雨上がりの午後、涼しい風が吹いていた。
公園の芝生は濡れていて、裸足で立つと、ひんやりと気持ちいい。
犬は駆けまわり、僕はゆっくりと大地を踏みしめる。
ここのところ、脳みそを酷使していたので、ちょっと疲れていたのだけれど、広いところに出ると、思考がさらりと流れて、やっと頭がスッキリしてくる。
僕も以前は、いつも頭のなかが落ちつかなくて、ずいぶん、わちゃわちゃしてました。
いろんなことが落ちつきはじめたのは、ハラに落とすようにしてから──。
よく言うじゃないですか──尻の穴を締めろ、どてっぱらで受けとめろ、って。
あれってつまり、なにか心配なこと、大変なこと、つらいこと、しんどいこと、痛みや苦しみがもたらされたときに、すぐに頭であれこれ考えるんじゃなくて、まずは肚(はら)で受けとめる、ってことなんですね。
人間の脳って、スーパーコンピュータなんか目じゃないくらいの、スンバラしいスペックですから、一瞬であれこれいろんな計算、思考をはじくんです。
そりゃもう、あっという間、パッと一瞬で、本人が自覚する前に、ものごと、出来事、現象を認識して、反応して、思考しはじめてる。
もう、気づいたときにはその思考と同化してる──つまり、ただの想像を現実だと思いこんで、──こりゃヤバいどうにかしないと!こりゃヤバいどうにかしないと!こりゃヤバいどうにかしないと!──と熱暴走、脳がバグるんですね。
これはもう、人間の脳が素晴らしく進化したおかげです。
生きるために、よかれと思って、リスクを避けようと、ヤバいことにならないようにと、優秀な脳みそコンピュータが、あれこれたくさんのアイデア──最悪のシチュエーションの可能性──をどんどん出してくるんですね
よかれと思って、脳が暴走するわけです。それの行き着く先がパニックなんだけども。
人間ってほら、ほかの哺乳類とか猿とかみんな四足歩行なのに、遠くを見ようとして立ちあがったら脳が大きくなってたくさん思考できるようになった──っていう、ちょっと邪道的な進化をした、けっこう不自然な生物じゃないですか。
だから、そもそもほっとくと思考が暴走するようにできている──笑。
そんな暴走脳の僕らはだから、まず、ハラに落とさないとダメなんです。考えるんじゃなく、まずは受けとめる。
なにかヤバいこと、怖いこと、イヤなことがあったときに、脳は無意識に一瞬でそれをどうにかしようと考えはじめちゃうから、それに気づいて──気づくことがすべてのはじまりです──、あ、まずはハラに落とそう、と。
ハラに落とす──ひらたく言えば、落ちつこう、ということです。
慌てふためいて騒いでも、落ちついてコーヒーを飲んでいても、現状はなにも変わりません。
自分の頭のなかが静かになるか、不安と恐れがぐるぐる回りつづけて混乱していくか、の違いだけ。
そう、いつだって混乱や不安は頭のなかにしかないんだもの。
で、ハラに落として落ちつくと、頭のなかが静かになります。
感情という波紋が消えた静寂の水面は、クリアに澄みわたります。
すると、その水底に、いろいろ見えてくるわけです。
ああ、私は怖いんだな、とか、めちゃめちゃ反応してたな、とか、いろいろ見えて、最後には、ああ、じゃあこうすればいいじゃんか──という、理(り)が見えてきます。
慌てふためいてばちゃばちゃ足掻いて暴れてると、水面はいつまで経っても波打って、なにも見えてこない。
だから、いったんハラに落とす。そんとき、お尻を閉めてないと、エナジーが漏れちゃうから、キュッと閉めておく。
すると、やがて、波紋が落ちついて、いろんなことがクリアに見えるようになる。
で、クリアに見えると、安心するんです。
だって、どうすればいいかわかるから、どういうことなのかわかるから。
怖いのは、いつも、──どういうことなのか、どうすればいいのか、わからないから。
だから、なんかあったら、まず、お尻の穴を締めましょう。
心で、じゃなく、実際に、肛門をキュッと締めるんです。
そうすると、自然に、ハラに力が入ります。
力が入ったハラは硬くなって、なかなか強そうです。
その強くたくましいハラは、ちゃんと出来事を、現実を、反応を、受けとめてくれます。
頭は、受けとめずに、わーっとあれこれ考えはじめちゃう。だってそういう機能の役割ですから、頭は。
それに対して、ハラは、受けとめるようにできてる。食べたものも、ハラへ落ちる。
だからまずは、考えるのはやめて、そこに落とすんです。──つまり、考えない。
ハラに落としたその重いやつは、落ちついてくると、さっきとちがう様相を見せます。
さっきとちがって、だんだん、──どうにかなりそうだな、どうにかできるだろ、あれ、そんなたいしたことないぞ、というように思えてくる。
重いやつが軽くなって、今度はなんだかかろやかに頭で考えることができる。そっから、やっと、思考すればいいんです。
慣れないと、コツがあるし、ちょっと練習というか、鍛錬は必要かもしれない。でも、遠い昔から、みんなやってることです。
とくに最近は、高度情報化社会──つまり、なにか不安になったらググる、という、これまた一瞬の反応に近い行動によって、さらに不安と恐れの言葉に充ち満ちたネットに顔をつっこんで、いらない情報がさらに入ってきて、さらに頭が混乱する──というおっかないサイクルが流行ってます。
コロナより流行ってるし、コロナよりおっかないです笑。
だから、まずは、ハラに落として、空(くう)──スペースを空けるんです。
あれこれ考えるのは、その後──。
ハラに落として、地に足が着くから、落ち着く──んだね😎