Shirahama beach / cotaro70s
来たる7月26日で39歳になる。30代になったのがついこの間のように思えるのだが、もう四十路が見えてきてしまった。
これくらいの年齢での立ち位置や方向性は、今後の人生をだいたい決めてしまうという。あるいは人生の折り返し地点ともいえる年齢なのだが、そんな大切な時期に、僕は心がパンクして、家に閉じこもっている。
毎日何をする気力もなく、暗い寝室で布団にもぐって、本や小説や映画に逃げこんでいる僕だけど、ただひとつ「やりたい」と強く思えるものがあった。
オートバイにテントやシュラフを積んで、独りで野宿旅に出ることだ。
僕は今でこそ毎年家族でキャンプに出かけているが、元々は独りでキャンプに出たいと思っていた。学生時代から、オートバイで日本一周するというのが夢のひとつだったのだが、「僕は自由になれない」というネガティブビリーフが強かったのか、けっきょくこの歳になるまでその夢を行動に移すことができなかった。
僕が小説家を目指していた大学生時代に、最も大きな影響を与えてくれた作家・花村萬月さんは、若い頃から独りで日本中を走り回っていた野宿旅の達人だ。彼の作品には、オートバイで旅をする若者がたくさん出てくるし、膨大な経験を活かしてノンフィクションの新書も書いている。
押しつけられた孤独は辛いものですが、自ら選択した孤独は、その感傷的側面もふくめて格別です。
いつも私たちは喋りすぎているのではないでしょうか。じつは、交わりすぎている。否応なしに交わらされている。
いいですか。あなたには、孤独になる自由が、ある。『自由に至る旅―オートバイの魅力・野宿の愉しみ』花村萬月
彼が提唱する野宿旅は、昨今流行しているお洒落なツーリングキャンプとは一線を画する。なるべく人のいないところ、できればキャンプ場も使わず、完全な孤独を追い求めて、山に籠もる。旅の間は食事にも興味がないので、さっとてきとうなものをこしらえて食べて、ひたすら走って、眠る、の繰り返しだ。
そんな旅がおもしろいのかどうか、今の僕にはわからないけど、とにかく僕も、独りになりたいという気持ちは強い。
対人関係に、あるいは現実のあれこれに煮詰まってくると、どこかに行きたくなってくる。そして、逃げだしてしまう。まさに逃避です。
いいですか。耐えるから、おかしくなるのですよ。
我慢は必要ですが、あなたはもう十二分に我慢を重ねているのではないですか。じっと自分の顔を見つめてください。表情がありますか。歪んでいませんか。『自由に至る旅―オートバイの魅力・野宿の愉しみ』花村萬月
僕も逃げだしたいだけなのかもしれない。誰のことも気にしないで、意味を忘れて、何も考えずに自然の中に身を置きたい。自分の意志で、自分の力で生きてみたい。そして、自分や他人に優しくなって帰ってきたい。
僕が震える声でその思いを伝えると、家内は深く頷きながら「行ってきな。好きなだけ行ってきて」と言ってくれた。その言葉で、僕は身体からすっと力が抜けて、ずいぶん楽になった気がする。本当にありがとう。
実際に独りで旅に出たら、面倒だったり寂しかったりつまらなかったりして、すぐに帰ってきてしまうかもしれない。けれどそれならそれでいい。帰りたくなかったら、もっと走っていればいい。いずれにせよ、僕はこの夏独りで旅に出ることに決めた。
今すこしずつソロキャンプに必要なものを調べて買いそろえているのだが、もし応援してくれるという方がいたら、アマゾンの欲しいものリストを作ったので、すこしでも助けてくれると嬉しいです。
さあ、ネットと書を捨てて、オートバイで外に出よう。