大好きなラーメンは味がしなくて、愛する海は鉛色に見えた。【鬱日記3】

IMG 9128 ◀ 自分が何をやりたいのかすらわからなくて、僕は下着を脱いだ。【鬱日記2】

ずいぶん長く眠ったような気がしていたけど、実際には五分くらいしか経っていなかった。閉じたカーテンの隙間から差しこむ光は、まだ朝の力強さを誇っている。

下着を脱いだままのみっともない自分の下半身を見て、いたたまれなくなった僕は、それでも意を決して立ちあがった。

このままこの暗い部屋にいてはいけないと思った。どこかへ行かなくてはならないと焦った。

外へ出るのが怖かった。近所の人に会うのが怖かった。それでも、このすべてを遮断した薄暗い部屋に居つづけてはいけない、ということだけは明白だった。

行きつけのラーメン屋へ行った。店の裏にある駐車場は知っていたけど、オートバイをどこに駐めたらいいのかわからなくて、しばらく辺りをうろうろ走りまわって、けっきょく店の前の車道に路駐した。

店内に入った瞬間に後悔した。いつもの店員さんが、いつもの無表情でいらっしゃいと言う。帰りたかった。もう誰とも会いたくなかった。なかなか注文が決められずに、誰にも言われていないのに、早くしなくてはと、独りで焦る。

豚骨ベースに鯛と鰹の魚介出汁を合わせた絶妙のダブルスープは、ちっとも味がしなかった。深いとろみの奥から薫るはずの芳香もない。麺は固い。水は臭い。隣の客はうるさくて、テーブルは脂でべとついている。

逃げるように店を出た。街ゆくすべての人が僕を嘲笑っている。そそくさとギアを入れて、気がついたら海へ出ていた。

驚いたことに、まだ涙は止まっていなかった。まさかラーメンを啜りながら泣いていたわけではないだろうけど、茅ヶ崎サザンビーチからの景色は、涙に曇ってほとんど見えなかった。

波打ち際に立って、また九年前のことを思い出した。僕はずいぶん長いあいだ、こうして海を眺めることすらしてこなかったのだと思いあたった。

あの頃はまだサーフィンもはじめてなくて、ただこうやってビーチに来て、波打ち際で潮騒を聴いて、砂浜に座りこんで打ち寄せる波に身体をあずけて揺れていた。それだけで、なによりも幸せを感じていた。

あの頃と今と、僕の何が変わってしまったのだろうか。何も考えていなかったあの頃の僕と、家族や将来のことを真剣に考えている今の僕の、どちらが正しいのだろうか。僕は毎日を精いっぱいがんばっているのに、どうしてこんなに苦しいのだろう。

そう思うと、大好きなはずの茅ヶ崎の海も、燦燦と輝く太陽も、ひどく僕を苛立たせるのだった。

つづく。

▶ いつの頃からか僕は、どうやって休むのかがわからなくなっていた。【鬱日記4】