こころハック

【エッセイ】弱音の効能

雨及彩虹雨及彩虹 / Metaphox

何ヶ月か前に、親父から電話がかかってきた。
いつもなら家族の近況をたしかめて、元気でやれよ、と声をかけてくれておしまいなのだが、そのときは違った。

親父は仕事と人生の大きな岐路に立たされていて(そういう年齢なのだ)、どうしたらいいのか悩んでいるようだった。親父からそういう相談みたいな話を持ちかけられたのははじめてだったし、弱音を聞くのもはじめてだった。

僕は生まれてはじめて、心の深いところに絡み合ったわだかまりみたいなものがすっと溶けて、親父に心を開いている自分に気がついた。

僕は親父のことを気遣いながらも、思っていることを素直に話した。親父はとても嬉しそうに僕の話を聞いて、僕が薦めた本のタイトルをメモした。

「近しい人に弱音を吐ける人は、強くなれる」

という言葉があった。どこの誰が言ったのか覚えていないし、ネットで調べてみても出てこないところを見ると、無意識に自分で考えた言葉なのかもしれないし、枕元でマリア様が呟いたのかもしれないけれど、僕の昔の手帳にそう書いてあった。

弱音と愚痴は違う。弱音とは、意気地のない言葉、つまり物事をやりぬこうとする気力のない言葉であって(広辞苑)、その響きは弱いものであっても、決してネガティブな物言いではないのだ。

それに対して愚痴というのは、言っても仕方のないことを言って嘆くこと(広辞苑)であり、まっすぐ後ろを向いているネガティブな言葉だ。

弱音というと、その語感のせいで、弱者の情けない印象を抱いてしまいがちだけれど、それは間違いだ。

いつも強気であらゆることにポジティブに立っていられる人なんていない。いないからこそ中村天風は通りに立って「いつも笑っていなさい」と説き、人々は教えを請うのだから。

心が雨漏りしたときに、弱音を吐いて他人に寄りかかれる人は、強くなれる。

本当の強さは、自分は独りじゃないって思って、独りでもう一度立ち上がれることだから。

うつ病や心の病に関する書籍を読んでいると、弱音を吐いて人に寄りかかることができない人が、独りでいろんなものを背負ってしまう、というようなことが書いてある。

僕の経験から言っても、たしかにそういう傾向がある人が苦しんでいる。

その原因は人それぞれ様々なんだけど、共通しているのは、強固な自尊心みたいだ。プライドとも言う。自己愛でもある。

僕らは自尊心なくしては生きていけないし、最後に僕らを支えてくれるのは他人ではなく自分の自尊心だと思うのだけれど、それが逆に僕らの心を締めつけてしまうらしい。

僕だってこう見えてけっこう強固な自尊心を持っていて、たまに我ながら鬱陶しく感じることもある。
だけど僕は元来甘ったれなので、けっこうすぐに弱音を吐く。痛いときは痛いと言うし、つらいときはギャーギャー騒ぐ。だから今日までどうにかこうにか生きてこれたような気もする。

基本的に僕が弱音を吐くのは家族だけれど、もっと言えば、好きな人に弱音を吐いているんだと思う。男でも女でも、僕が人間として大好きで、きっと僕のことを好いてくれている人に、大小の弱音をぶつける。

僕がぶつけた弱音は、僕を大切に想ってくれる他人の気持ちになって返ってきて、僕はその想いだけで明日の岸辺に辿り着くことができる。人はそうやって生きていくべきじゃないかな、なんて思う。

大切な人に弱音をぶつけられた人は、決して嫌な気持ちにはならないと思う。
むしろ心を開いて、その絆や結びつきのあたたかさを感じられるはず。

僕みたいに、スケボーで転んだくらいで大騒ぎするのは迷惑かもしれないけれど、もうちょっと弱音を吐いてみるのもいいもんですよ。

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