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古谷実のシリアス路線第一作にあたる人気漫画『ヒミズ』の実写映画版。こういう漫画を映画にしたい人がいつかは出てくるだろう、と思っていたけど、それが才能ある人でよかったです。
人気漫画の実写映画化の大半が失敗するという明白な歴史の中、見事に新しい『ヒミズ』を作りだした園子温監督に拍手。
あらすじ
住田佑一(染谷将太)、15歳。彼の願いは“普通”の大人になること。大きな夢を持たず、ただ誰にも迷惑をかけずに生きたいと考える住田は、実家の貸ボート屋に集う、震災で家を失くした大人たちと平凡な日常を送っていた。茶沢景子(二階堂ふみ)、15歳。夢は、愛する人と守り守られ生きること。
引用元: あらすじ 解説 ヒミズ – goo 映画.
原作と違うところ
言うまでもなく、漫画と映画は違います。小説も絵画も違う。あらゆる表現には伝えるものや方法に得手不得手があって、良いところと悪いところがある。だからすでに多くの人の心に食い込んだ作品を別の方法であらためて表現するのは、そうとうの力業だ。
本作が、キャラクター設定やラストなどを大幅に変更したにもかかわらず、原作と同じだけの「痛み」や「絶望」を表現できたのは、監督が、原作者と同じ風景を心の中に持っていたからだろう。
監督には、原作の根底に這う「風景」がはっきりと見えたから、必要のないシーンや設定、変更すべき箇所がありありと浮かび上がってきたのだと思う。
違うのに、許せる。むしろ、実写映画ではこのほうがずっといい、と思える変更が多かったように僕は感じた。
読んでない人は、ぜひ原作を読んでください
古谷実の『ヒミズ』を、見事に新しい映画版『ヒミズ』として表現したのは素晴らしいけれど、僕はこの映画を観て、あらためて原作と古谷実のすごさを思い知った。
映画の住田や茶沢さん、周りの人たちはみんなテンションが高かったけれど、原作の世界はずっと、怖いくらいに静かで、乾ききっている。
作中に何度となく出てくる、「住田語録」とも言える世をすねた台詞の数々も、静かに吐き捨てるように発せられるから、ぞっとくる。
絶望が、音も立てず、いつの間にか自分のすぐそばまで迫っている。そういう類いの怖さが原作にはある。
クライマックスに近づくにつれて、僕は手を合わせて祈りを捧げていた。
ここから先は、きちんと観たい人には読んでほしくないのだけれど。
原作を最後に読んだのは何年も前なので、忘れている箇所がたくさんあった。映画を観ながら「そういや、ラストってどうなったんだっけ?」と思案して、はたと思いあたった。
茶沢さんの想いは届かない。
想うだけでなく、大地を踏みしめて行動を起こす茶沢さんの愛という動詞は実を結ばない。
住田は、茶沢さんとの夢のある未来を語りながらも、その晩に自ら命を断つのだ。
僕はそれを思い出した途端に、胃のあたりがきゅっと収縮するのを感じた。
原作では、天地がひっくり返っても住田にこびりついた「絶望」は引きはがせない、という雰囲気がずっと漂っていたけれど、本作には、ずっと「希望」が隠されていたということに、僕はそのとき気がついた。
「死ぬほどつらいことがあったとしても、君は独りじゃない」
みたいな、歯の浮くような、わかったような口をききやがって的な、決して『ヒミズ』という世界観には相容れないはずの「希望」が、じつはたくさん隠されていた。
気がついたら両手を合わせて心の裡で呟いていた。
住田、どうか生きてくれ。
住田がんばれ!夢を持て!
ヴェネチアで揃って賞をもらった主演の二人がすごいのか、そんな演技を引き出した監督がすごいのかわからないけれど、ベストキャスティングじゃないでしょうか。久しぶりに見た窪塚洋介も、この人にしか出せない雰囲気は健在だった。役者って演技力だけじゃないですよね、やっぱり。
東日本大震災があって、だいぶ脚本が変わったらしいですね。被災地の様子がリアルに使われていて、音楽とか表情とか効果音とかあいまって、けっこうすごいです。息ができないくらいに。
映画のはじめの方で、夢や希望を声高に語る高校教師が滑稽に描かれていて、たしかに何もわかっていないちょっとオメデタイ感じなんだけど、その先生の台詞が、クライマックスで叫ばれたときに、僕の中にはなんかこう、ぶわーっとくるものがあった。
なんだかんだ言って、希望じゃんよ、って。
いつの間にかメモしていた感想の切れ端
- これを見た誰もが父親を殺していいと思ったはず
- なぜ少年はここまで苦しまねばならないのか
- 原作を超えた傑作だからこそ、構えずに普通に見てほしい
- だんだん感覚が麻痺してくる
- なぜこんなキャスティングができたのか
- 世界は本当に狂っているのだろうか
- 茶沢さんの苦しみはどこへ
- 自首しろよ!君は今自分の決めたルールでがんじがらめになっているだけだよ
- 池に浮かぶ小屋が怪物
- 俺にはわかる、の詩
- 茶沢さんは自分の話をしない
- 茶沢さんは愛している。男の言うことを聞いて愛されるより、住田のためだけを思って動く。
- 撃たないでくれ
- 綺麗なロウソクの夜
- 愛する人と一緒にいられれば、他には何もいらない、という原点
- 夢みたいだ、という住田の言葉は誰のため?
- 茶沢さんの愛で、墨田は救えなかったのか?
- 住田頑張れ。夢を持て。世界で一つの花になれ。