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「2005年度アカデミー作品賞、脚本賞、編集賞を受賞した衝撃の問題作」みたいなふれこみだったので、なんだか重たそうな感じがして(ジャケット写真からして悲壮感が漂いまくり!)しばらく敬遠していた『クラッシュ』ですが、観てみたらびっくり!
息が詰まることもあるけれど、鑑賞後に残るのは、小さいけれど確かな清々しさ。
身体を覆った無数の小さな傷が、愛する人の掌でそっと温められ、癒やされる、そんな気になる映画です。
あらすじ
クリスマスを間近に控えたカリフォルニア州ロサンゼルス。ハイウェイで起こった1件の自動車事故が、思いもよらない“衝突”の連鎖を生み、運命は狂わされていく・・・。刑事、自動車強盗、地方検事とその妻、TVディレクター、鍵屋とその娘、雑貨屋の主人とその家族・・・。人種も階層も異なる人々がぶつかり合うとき、憎しみと悲しみが生まれ、愛はすれ違う。運命に翻弄され、悲しみや怒りに向き合う彼らが、その悲劇の先に見る希望。それは、あなたも流したことのある、あたたかい涙。
引用元: BS-TBS クラッシュ.
痛みの先にあるあたたかさ
軽い映画ではないです。ドリュー・バリモアの『25年目のキス』を観るような気分では耐えられません。冒頭から怒濤のように人々を襲う小さな「不幸」の連続に、僕はわずかながらこの映画を選んだことを後悔しはじめていました。
話を聞かず一方的にまくし立てる中年女性。幸せな夫婦を襲う車強盗。権力で人種差別をする警官。鍵屋に怒鳴り散らす店の主人。
出てくる人々はみんな自分勝手で、他人に攻撃的で、見ている僕をうんざりさせる。
だけど物語が進んでいくにつれて、あることに気がつきます。
「誰もが、ただ幸せになろうとしているだけだと」
人々は結果的に他人に害を与え、自分も苦しむことがあるけれど、本当は自分の周りの人たちを護りたいだけなんですよね。それぞれが、何かを背負って、何かを護っている。
それに気がついたとき、心に刺さったざらついた痛みが、切なさに変わっていきます。
これはロサンゼルス版『ラブ・アクチュアリー』だ!
本作を観た後に僕がふと思い出したのは、『ラブ・アクチュアリー』という映画です。クリスマスのロンドンを舞台にして、ヒュー・グラントやキーラ・ナイトレイといった綺麗どころを使った、甘ーいロマンティック・コメディで、『クラッシュ』の対極にあるような映画なんですが。
僕は時おりこのチョコレートのようにスウィートな映画を観てほっこりするというちょっと気持ちの悪い趣味を持っているのですが、この2作品は、まったく違うようでいて、なんか似ている感じがします。というか、物語の骨格は同じなんじゃないか。
季節はどちらもクリスマス。ロサンゼルスにもロンドンにも涙は溢れている。でも本当は、涙と同じくらい愛情だって溢れている。幸せになろうというシンプルな群像劇。その愛情の描き方に違いがあるだけで、本作も同じ事を言っているのかもしれない。
Love actually is all around.「愛はいたるところに溢れている」
『ラブ・アクチュアリー』のようにわかりやすくてハッピーにはならないけれど、その分リアルなあたたかさのようなものが、心にしっとりと、長く残る映画でした。
今のところ僕の本年度最優秀作品ですわ。
おまけ雑感
監督は本作がデビューとなったポール・ハギスさん。イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家だそうで、なるほど重厚な脚本やリアルな展開にも納得がいきます。
ひさしぶりに観たマット・ディロンがよかったですねえ。あいかわらずの悪顔最高でした。
サンドラ・ブロックもいい雰囲気でした。『プレシャス』のマライア・キャリーもそうでしたが、華のある女性が影の濃い役をやっているのはいいですね。
ちなみに観る前はジャケットで抱き支えられているのはサンドラだと思っていたんだけど、違いましたね。先入観ておそろしい。