現代における最高の贅沢は<静寂>かもしれない。__ノイズキャンセリングの最高峰「SONY MDR-1000X」の長い永いレビュー

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家で映画見るのに、どうしてもワイヤレスで “それなり” に鳴ってくれるヘッドホンが欲しかったんです。

僕が持ってる「Beats by Dr.Dre Solo2」は、低音がわりと鳴ってくれるので映画にはいいんだけど、オンイヤー(耳に押しつける)タイプなので、耳が痛くなっちゃって長時間使用には不向きなのと、解像度がアレなのね。

そんで、ずっと使ってたオーディオ・テクニカのヘッドホン(カモフラ柄に一目惚れして四年くらい使ってた)がついに昇天なされたので、これを機にもうちょっとイイやつを買おうと、いろいろ調べてゲットしたのが「SONY MDR-1000X」っていう、ワイヤレスで最新のノイズ・キャンセリングで直感的な操作ができて様々なモードが搭載されているっていう、九州じゃんがららあめんみたいな “全部入り” なモデル。

主な用途は、前述したように書斎や寝室における映画鑑賞なので(いずれはプロジェクター併用予定)、必須要件はワイヤレスと臨場感および重低音(迫力)……なので、第一候補はサラウンドの「MDR-HW700DS」だったんだけど、ユニット設置が面倒だし、iPadでも使いたいということで、中間を取って、これになったのでした。

大人がカッコつけるのにいいですよ。

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まず、デザインはSONYらしく大人っぽくシックで上品で落ちついた感じ。

僕はもっとポップでやんちゃなデザインのほうがいいなあ、なんて思ってたけど、実際に装着してみたら、高級感がそんなにイヤらしくなくていいですね。

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重厚感がありすぎずなさすぎず、シックでいい感じです。

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ケースはすげえデカい。

<静寂>ってなんて贅沢なんだ……ノイズ・キャンセリングの威力に息を呑む。

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ノイズ・キャンセリングは、買う前はべつにどうでもよかったんだけど、いやあこりゃ快適ですね!すんごいよ。

僕は家の書斎でいつも仕事していて、初夏の午前中は窓を開けはなっても静かで気持ちよくてホント天国みたいな環境なんだけど、午後は近所の子どもたちが帰ってくるので、もうビックリするくらい騒々しいんですよ。休日は大人たちも外でBBQやったり遊んでるから、騒音レベルはさながら海水浴場かパーティ会場ですよ。まあいちばんうるさいのはうちの子なんだけど笑。

そんなとき、ほとんど期待もせずノイズ・キャンセリングを使ってみたら……、あらナニコレ奥様!!!

まったく聞こえなくなるわけじゃないけど、騒音レベルはしっかりシャットアウトされて、とにかく外界が “気に障らない” 静寂をもたらしてくれる。

ノイキャンをオンにすると、かすかにサーッというホワイトノイズが聞こえるんだけど、これはすぐに気にならなくなる。電車の騒音や話し声だって、世界と自分とのあいだにすっと透明の幕が下りたかのように、遠くの音に変わる。

完全に音が消えるのではなく、雑音は消え、その他の大きな音は、”気に障らない” レベルに落としてくれるっていうのがすんごいねこりゃ。

昼下がりには、書斎のソファに横になって、ノイキャンをオンにしてごく微量のヴォリュームでクラシックギターの曲なんかを聴きながら本を読むのが至福の時間です。ただしノックの音すら聞こえないので、家人や子どもたちがいきなり部屋に入ってくると飛び上がっちゃうので、心臓には非常に良くありません。

音質はEX1000の素晴らしさを思い知る羽目に。

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音質はね、なんて言ったらいいかわかんないんだけど、いいっちゃいいし、ひどいっちゃひどいです。って、この文章がいちばんひどいってのはよくわかってるんだけど、まあとりあえず説明しますね。

まず僕は、SONYのMDR-EX1000という、とてつもないモニター・イヤホンを持ってるんです(機種名が紛らわしいな)。

こいつは原音再生に忠実な透徹したモニター・ヘッドホンで、まあビックリするほど音がクリアなんですけど、僕はこれをメインに使っているので、もう音質を評価する基準がこれになっちゃってるんですね。だもんで、まずこれで、たとえばマイルスの「It Never Entered My Mind」とか宇多田ヒカルの「人魚」を聴いて、それから本機1000Xで聴いてみると……、え、こりゃひでーわ!ってなっちゃうんですよ。

正直ここは比べちゃいけないところなんです。プロダクトの思想が違うんだもの。繰り返すけども、MDR-EX1000というのは、限りなく原音に近い再生を目指したプロフェッショナル向けのモニター・ヘッドホンであり、それに対してMDR-1000Xというのは、ノイズ・キャンセリングにワイヤレスにその他便利な操作性など最新の機能をふんだんに盛り込んだ、トータルでフラッグシップとなるモデルだから、音質だけで比較するのはそもそもお門違い。

とはいえ、お値段もお安くはないし、名称もなんだか似てるし、EX1000に劣るとはいえ、もう少し鳴ってくれるかなあと思ってたんだけど、ちょっと比べようがないくらいに違った、というのが偽らざる本音です。

ひとことで言えば解像度。EX1000は歌声や楽器などすべての音が別の場所からクリアに響いてくるのに対して、1000Xはあらゆる音がぐっちゃりと混ざり合っちゃってる感じ。こんなん説明してもとうてい伝わらないんですけどね。

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大袈裟に言うと、1000Xだと、たとえばポップスでも、宇多田ヒカルや桑田佳祐のCDを流している部屋の壁に耳をくっつけてる、という感覚だけど、EX1000だと、宇多田と桑田がそこで唄っているような気すらしてしまうほどの臨場感がある。

もっと感覚的なことをぬかせば、EX1000で聴くと、なにより気持ちよく音楽に入り込んでしまって、両機の比較のために聴いていても、いつの間にかうっとりと聴き入って時間を忘れてしまうほどだ。

ここまで読んで、賢明な皆さんはお気づきだと思うけども、これは本機1000Xがひどいんじゃなくて、EX1000が優秀すぎる、という話なのである。そしてもはやEX1000が音質の基準となってしまった僕には、それ以外を評価できない。なので、1000Xの音質がどこまでいいのかわるいのかわかんねえや、というのが正直なところです。

けれど、僕は音質至上主義のオーディオ・マニアではないので、1000Xはぜんぜんアリです。ワイヤレスの利便性に直感的な操作性、シックなデザインに快適すぎる(!)ノイキャンなんかをトータルに考えると、これはこれで完成していて、これにさらにEX1000の音質が乗っかったら、そんなもん唯一無二の神機ですよ間違いなく。贅沢すぎてバチが当たりますよ。

ちなみに僕はそもそも、原音再生だ解像度だ定位だなんてのにはそんなに興味がなくて、じっくり音楽に入り込んでぐいっと心を揺さぶってくれるんならなんでもええわい、というタイプなので、原音再生なんてくそくらえの、こってりたっぷりな味つけのBOSEやbeatsだってカッコイイと思ってます。クラゲスピーカー買ったときも書いたけど、ウーファーってやっぱ理屈をぶっ飛ばすパワーがありますよ。まあでもEX1000は絶対に手放せないんだけども。

<まとめ> ノイキャンの静寂を知ると、もう戻れない。

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結果的に音質についてはくさしてしまう形になってしまったけれど、ウリのひとつであるハイレゾ対応は試していないし、トータルで評価すると、僕にとってEX1000と1000Xは、同点引き分け。どちらも一長一短すんばらしいですホントに。

EX1000の音楽に入り込む感覚は捨てがたいけれど、一度ワイヤレスに慣れてしまうと外出時にはケーブルがひどくわずらわしいんだよね。そして何より1000Xには快適すぎるノイキャンがありますからね。

『マチネの終わりに』っていう小説に、かつて音楽は静寂の美と対決するものだったのが、今は喧噪と戦わねばならない、みたいな話が出てくるんですけどね、たしかに、音楽を聴くんでも何かをするんでも、まずは昔だったら当たり前だった<静寂>を用意しなければいけない世界になっているのだなあと僕も痛切に感じましたよ。

『__生きることと引き替えに、現代人は、際限もないうるささに耐えてる。音ばかりじゃない。映像も、匂いも、味も、ひょっとすると、ぬくもりのようなものでさえも。……何もかもが、我先にと五感に殺到してきては、その存在をめいっぱいがなり立てて主張している。(中略)誰もが、機械だの、コンピューターだののテンポに巻き込まれて、五感を喧噪に直接揉みしだかれながら、毎日をフーフー言って生きている。痛ましいほど必死に。そうしてほとんど、死によってしかもたらされない完全な静寂。……』

___『マチネの終わりに』

完全な<静寂>は死によってしかもたらせないかもしれないけど、毎日を楽しく生きていくのにじゅぶんな<静寂>は、MDR-1000Xでほとんど補えるかもしれないです。よく考えてみたら、静寂が心地よくてノイキャンばっかり使って音楽聴いてないかもな笑。

あと、映画鑑賞という主用途をあらためて考えると、やっぱりサラウンドシステムにしておけばよかったかなと、ちょびっとだけ後悔したけど、でも、デジタルがもたらしてくれる<静寂>の世界に入れたのは、大きかったよこりゃ。