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2014年夏に出かけたバイク一人旅の記録。

二日目。真夏の陽射しに灼かれた西伊豆のキャンプ場を後にすると、仁科峠から西伊豆スカイラインを通り、沼津・富士市街を抜け、朝霧高原の先の本栖湖を目指す。

前回まで▶ 海を見下ろす西伊豆のキャンプ場で、夕焼け風呂に心身を癒やす。【バイク旅行記04夏#3】 | CLOCK LIFE*

ゆっくり眠れたおかげで、朝から快調に走りだす。

燃料補給も終えて潮風を浴びながら海岸線を走っていると、見覚えのある景色が見えてきた。以前家族で遊びに来た宇久須キャンプ場が見えてきたのだが、予定とちがう。もっと手前で曲がって仁科峠を目指さなければならないのだ。

この旅ではあまり使わないようにしていたiPhoneを起動し、Googleマップで現在地を確認すると、来た道を少し戻って別ルートから仁科峠を目指すことにした。

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海沿いでは強烈に肌を灼かれ、森に入ると全身が冷まされていくのがとても心地よい。

道を間違えたおかげで選んだ別ルートは素晴らしい峠道で、思わず歓喜の声をもらすほど。あまりにも気持ちよく走っていると止まりたくないから、必然的に写真もない。やはり現地でこの空気を感じてほしい。もちろんオートバイで。

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とてつもない傾斜の舗装路の途中に唐突に出てきたキャンプ場とリゾート施設。明らかに空気がちがう。

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人の匂いがしない代わりに、動物たちと緑の気配が濃厚だ。そして雲が近い。

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遠景はなぜ人の心をなだめるのだろうか。ジブリ映画などを観ていても、電車が走っていたり、鳥が空を舞っていたりするだけの、ただの街の風景が僕らの心をやさしく撫でてくれる。

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西伊豆スカイラインは、その名の通りまさに空へ伸びる「天空の道」だ。

オートバイのエンジンを切ると、小鳥たちのさえずりがかしましい。驚くほどたくさんの自然の音が耳に飛びこんでくる。ぜひ動画でその音を聴いてほしい。

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ラピュタの空気はきっとこんな感じなんだろう、と真剣に考える。それほどまでに非現実的で、鮮烈な光景が広がるというのに、旅人は先を急ぐのだから不思議なものだ。こうやってふり返れば、もっとここでゆっくりと空気を吸ってくればよかったのに、と思うのだが。

天空の道から沼津市街へ向かう。

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美しい岬には舟が浮かび、街が並び、人の気配がする。これはこれで心が安まる。人は独りだと寂しいが、誰かといれば傷つく面倒な存在だ。

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沼津からは市街地へと入る。だんだんと交通量が増えてきて、走行にもストレスがかかる。早く市街地を抜けてふたたび自然の中に身をおきたいと焦るせいで、ほとんど休憩も取らずに走りつづける。

ずっと走っていると脳がそういう運転モードに入ってしまうのか、とにかく落ち着きがない。沼津のコンビニでおにぎりをミネラルウォーターで流しこむと、すぐさままた走りだす。陽に灼けた二の腕の赤黒さは尋常ではないが、そんなものはおかまいなしだ。

沼津から本栖湖までは70km程度なので、距離にすればたいしたことないのだが、なにしろ市街地なので気持ちがちがう。こんな交通量の多いところで排ガスを吸うために旅に出たのではないのだ。途中で何度か止まって、水分補給をしながら今夜のキャンプ場に予約の電話をかけて先を急ぐ。

それでも富士市からは「西富士道路」というバイパスが伸びていて、富士宮市から朝霧方面への道は二車線で走行もスムーズだ。

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夕方前に本栖湖の「浩庵キャンプ場」に到着。こう言っては失礼だが、事前に調べていた印象よりもだいぶきれいな設備のキャンプ場だ。

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思わぬ市街地走行で疲弊しきった脳に、本栖湖の強烈な青さが刺さる。河口湖や山中湖とちがって、自然がそのまま残された本栖湖は一目で気に入ってしまった。この日は曇っていて見えなかったが、この先に見える富士山の風景が千円札に描かれているのだという。

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先客がいるが、混雑しているわけでもないのでのんびりとしている。

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美しいの一言。こういうところにずっと住んでいたら、東京の街がいやになるだろうな。

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森の木陰にテントを張る。ここからは湖が見えないが、他の人からの視線もあまり気にならない。西伊豆のキャンプ場とちがって、すこしは独りになれそうだ。

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一人旅二日目の夜。ビールとバーボンを飲んでみるが、何もする気がしない。思った以上に疲れているのだ。

オートバイでいろんなところへ行って、夜はゆっくり星空でも眺めながら現実から逃避して心に隙間を作ろう。そう考えて旅に出たのだけれど、心はともかく体が動かない。

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当初の予定では、明日は長野のどこかのキャンプ場に泊まって、明後日は旅の目的の一つである、天空のキャンプ場と呼ばれる「陣馬形山キャンプ場」を目指すはずだった。

もはや考えるのもおっくうになってしまった。けれどそれはそれでいいのだ。時間と仕事に追われた日常から逃避するための、たった独りの旅だ。今日はもう眠ろう。明日のことは明日考えよう。それはとても幸せなことじゃないか。

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つづく ▶ 湖のほとりでため息をついて、僕は家に帰ろうと決めた。【バイク旅行記04夏#5】 | CLOCK LIFE*