麻布十番で喰らう京都の黒い中華そばとザ・焼めし。

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実家の仕事を終えた帰りに、麻布十番をぷらぷら。さて昼飯はどうするか。ここらはうまいものがそこらじゅうにある。SAVOYでマルゲリータにかぶりつくか、更級堀井で透き通った蕎麦をたぐるか、海南鶏飯食堂でチキンライスもわるくない。

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そういえば京都の老舗中華が十番にあると聞いたのを思い出す。ネットで調べてみると、黒いスープの中華そばに焼めしがうまそうじゃないか。

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京都発祥の「新福菜館」は昭和十三年創業。ってそれ戦前じゃないか。戦火や食糧難の闇市をくぐり抜け、七十年以上もつづく有名店だそうだ。京都ラーメンの源流と聞くだけで、まずは脳内であれこれ想像してよだれが溢れてくる。

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外に設置された券売機を見るに、どうやらここは「中華そば」と「焼めし」の両方を食べるのが基本らしい。人気NO.1だという「中華そば並・焼めし小」にする。

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ふふふふ。出てきたどんぶりを一瞥して思わず笑みがこぼれる。噂どおりの黒さだ。そこにたっぷりの九条ネギの緑ともやしの白が眩い。食欲をそそる香りも立ちのぼっている。

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目で見ているだけで醤油の強さを感じるが、鶏ガラの出汁がしっかり負けてない。うむ、うまい。どこか粗雑な味わいがまた愛おしい。闇市をくぐり抜けてきた中華そばならではの、力強さのようなものを感じる。

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低加水の中太ストレート麺がスープをたっぷり持ちあげる。うむ、うまい。やわな多加水麺では負けてしまうだろう。これしかない、というマッチングだ。

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極薄の焼豚はふんわりやわらかく、こちらにもしっかり醤油味が濃厚だ。

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さあ、焼めしだ。チャーハンではなく、焼めし。その名にふさわしく、見た目からしてやはりチャーハンとは違う、どう見ても焼めしである。そしてこちらもひたすらに黒いではないか。

中華そばもそうだが、こいつはグルメを気取ってお上品に食べるような料理ではない。すこし柄の曲がった給食に出てきそうなスプーンで、黒い焼めしをかきこむ。マンガなら「ガッガッ」と擬音が入るような勢いで。

こちらも醤油味が濃厚だが、理屈抜きにうまい。いわゆる中華のパラッパラのチャーハンとは違い、米と米が適度に粘着していて、かといって家のチャーハンのようにベチャベチャしているわけでもなく、それがもう絶妙にうまいのだ。炒めたのではなく、焼きつけた、という感じがするから、焼めしなのだろう。

厚みのあるレンゲよりもこんな安っぽいスプーンのほうが食べやすい。この味にも合っている気がする。一瞬、麺にご飯という超炭水化物食に気持ちがひるみそうになるが、気を取り直してガッガッと口に運ぶ。いいのだ、ぼくらは生きるために喰うのだ、という気持ちになってくる味だ。

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「新福菜館」の中華そばと焼めしは、古き良き伝統の、そしてなにより生命力に溢れた力強い味わいだった。「阿夫利」のような洗練された清湯スープとは対極にある、粗雑さの中にある旨み。とはいっても、二郎系や家系のような豚骨の濃厚なこってりさはなく、あくまであっさりとした中華そばなのである。

麺とめしをガツガツとかきこんでいると、闇市のバラックでめしを食う屈強な肉体労働者になったような気分である。店を出る際に、花のように美しく若い女性が一人で入ってきたが、彼女があの焼めしをかきこむ姿を見たいと思った。あの美しい横顔で、ガッガッと音を立ててくれるだろうか。