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中学生の娘とデートの約束をしていた。

いや、彼女にとっては、ただ、部活で必要なモノをパパに買ってもらったり、おいしいものを食べたりする日、というだけなのかもしれないが。

朝のアンとの散歩から帰ると、娘がやってきた。学校帰りに寄るときとは違って、休日なのでお洒落をしている。

マスクをしているので表情がうかがえないが、疲れているのか、眠いのか、ちょっと元気がない。

私たちは車に乗って、辻堂のテラスモール湘南に向かう。

何食べたい?何が必要なんだっけ?他に欲しいものはある?お姉ちゃんは何か欲しいものないのかな?ママは元気?__車中でいろいろ訊いてみるが、いつも元気な娘の口数が少ない。

私たちはテラスモールに着くと、まずは昼食をとることにした。GWのお昼どきのレストラン街はもちろん混雑していて、ほとんどの店の前に行列ができている。

娘は、どこでもなんでもいい、と言うので、私は、おじさん一人ではちょっと入りにくいラケルでオムライスか、パスタの気分だったが、どちらの店も長蛇の列で迷っていた。ぶらぶらと他の店もまわってみると、以前妻と何度か行ったGARLIC JO’Sが入れそうな雰囲気だった。

ここの料理はなんでもかんでもニンニクまみれで、ニンニク好きの私たち夫婦にとってはいい店だったが、GWの家族連れのランチにはあまり適さないのか、すぐにテラス席に案内された。

娘はあいかわらず元気がなく、あまりお腹が空いていない、と言うので、彼女が好きなガーリック・シュリンプにバゲットをつけて、ここの定番のガーリック・ピザとガーリック・ガーリック・ペペロンチーノを注文した。

料理がくるのを待つ間、ジンジャーエールを飲んでいるうちに、娘は少しずつ元気を取り戻しているようだった。

「どうした?体調わるいの?」「うん、なんか頭が痛くて……、車も気持ち悪かった」「そういうときは言いな。無理しなくていいんだから」

じつは、私も朝から体調が芳しくなかった。けれど、楽しみにしていた娘とのデートだったので、気持ちを上げていたのだ。

「じつはパパも今日調子わるくてさ。いいじゃん、お互いに元気ないなら、無理して元気にならなくていいから、のんびりお買い物して、のんびり帰ろうよ」

それから私たちは、いつものように近況を話したり、欲しいものを話したりしているうちに、料理が運ばれてきた。

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娘は大好きなガーリック・シュリンプを食べると、おいしい!と目を輝かせ、バゲットも少しずつ食べた。

「ちゃんとごはん食べてないんじゃない?」

訊くとやはり、娘は昨日からろくなものを食べていなかった。ママはちゃんと食事を用意してくれるし、食べるものはいつも家にあるし、いつもは食べているんだけど、昨日は忙しかったり面倒だったりして、そういえばおにぎりしか食べてなかった、とか。

「君は若いんだし、成長期だし、部活だ勉強だ遊びだって、エネルギーが必要なんだから、ちゃんとご飯とかパンとか炭水化物を食べたほうがいいよ」

私がそう言うと、娘は二つ目のバゲットを囓りながら、

「たしかにそうかもしれない。食べたらだんだん元気になってきた」

と、笑った。

ガーリック・ピザとガーリック・ガーリック・ペペロンチーノは、一口ずつ食べたが、さすがにニンニクが強烈すぎたらしく、残りは私がすべて食べた。私もずっと糖質制限を意識していたので、こんなにたくさんの炭水化物を食べるのは久しぶりだった。

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でも、ピザもパスタもニンニクまみれでとてもおいしかった。娘もガーリック・シュリンプとバゲットを平らげ、すっかり元気を取り戻しているようだった。

病に倒れてからは特に、ずっと健康的な食事に気をつかってきたが、久しぶりに、食べたいものを食べたいだけ食べた気がした。そして、せっかくの娘との時間なのだから、それによって体調がわるくなっても、気合いで乗り切ろう、と心の裡で私は思っていた。

__気合いで乗り切る。

そのように考えているのは、久しぶりだな、と思った。入院して、退院して、毎日大量の薬を服んで、自分の身体をモニタリングして、いつも気をつかい、ずっと怯えていたのかもしれない。

けれど、ようやく、__気持ちでやってやろう、と思えるくらいに、私もまた元気になってきているのだ、と感じた。

私たちは店を出ると、買物をしてまわった。するとやはり少し頭が重く、しんどくなってきたので、

「やっぱり食べたらなんか具合わるくなってきちゃった。頭痛いわ……」私は歩きながら娘にそう言った。「でも……ダイジョーブ!」

剽軽な声色でそう言って、変顔を見せると、娘は笑い、自分も真似をして、ダイジョーブ!と言った。

「ねえ、結局、なんでもそうじゃない? 具合がわるくなったり、イヤなことがあったり、苦しいことも人生にはあるけど、でも、ダイジョーブ!って言ってりゃ、ダイジョーブじゃんね」

私はそう言って、また同じように変顔をし、二人で笑い、それから別れた妻のことを思った。

「ママって、いつもそうだったよね。自分が辛くても、疲れていても、苦しくても、でもダイジョーブ!って自分に言い聞かせて、みんなのためにがんばってくれてたんじゃないかな」

__いや、違う。彼女はダイジョーブなんかじゃなかった。だから、私たちは破綻したのだ。

彼女は、ときに病に倒れ、入院したり、腕や肩を壊したり、肺炎になるまで仕事や家事をがんばったり、心も身体も満身創痍だったのだ。混乱していた私は、気づいてあげることができなかった。本当はダイジョーブじゃない、限界だった彼女に。

スポーツ用品店で娘が部活に使う様々なモノを買い、ホラーアニメのグロかわいいキャラクターのぬいぐるみキーホールダーを買い、ムラサキスポーツでは私がKEENのサンダルを買った。

夏の海はいつもビーサンだが、今年の夏はアンがいるので、走れるサンダルがほしかった。ずっと気になっていたKEENのサンダルが、まさにそれにピッタリだった。

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カラーが豊富に揃っていたので、私は気になった何足かをすべて試着し、鏡に映して見、結局娘が選んだオリーブ色に決めた。

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それから本屋さんをまわり、ロフトで文房具を買い、ママとお姉ちゃんにも何か、と歩いているうちに、私は頭が重く、身体が固く、心臓がきゅっと萎むのを感じた。

「ちょっとしんどくなってきたわ……でも、ダイジョーブ!……って言えないから、ちょっと休もう」

私たちはベンチに腰かけて、しばらく休んだ。でも、十分もしないうちに私はラクになり、またすぐに立ちあがって買物を続けた。私はあらためて思った。

__生きていれば、具合がわるくなったり、イヤなことがあったり、苦しいこともあるけど、休んだり、時間が経てば、最後はいつも、ダイジョーブだって。

私たちはそれからもいくつかの買物をして、スタバでソイラテとキャラメル・フラペチーノを飲んでまた少し休み、夕方には家に帰った。すぐにアンと散歩に出かけるつもりだったが、私はソファに横になると、いつのまにか気絶するように眠っていた。

三十分ほど眠ると、私は回復し、娘とアンと三人で海へ散歩に出かけた。晴れていて、風が涼しくて、気持ちのいい五月の夕暮れだった。

私はアンと娘と三人で砂浜を歩いているだけで幸福だった。__今でいい、と思った。富士山が綺麗だと、娘が笑った。そのまわりを、アンが駆けまわっていた。

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