コラム/エッセイ

めんどうくさいけど、いとおしい。いろいろあるけど、一緒にいたい。

Gururi3

『ぐるりのこと。』

刺さったねこりゃ。俺の生涯ランキングベスト3に入る映画だったよ。

世界中のすべての夫婦に見てほしい。

この映画を知らずして、俺って映画好きでけっこう詳しいんだぜって顔してたんだから、俺も間抜けとしか言いようがないよ。

まったく俺たち夫婦の物語じゃねえか。

っていう映画さ。そりゃ刺さるだろうって。

リリー・フランキー演ずる主人公は、いい年して職を転々とする、女にも金にもだらしない男。

木村多江演ずる奥さんは、そんな男と暮らす健気でマジメな女。

この時点で、かつての俺とママちゃんそのまんまの設定じゃねえか。

Gururi1

やがて女は鬱になる。

雨の夜。開け放ったベランダに腰かけてずぶ濡れになった女の口から出る苦渋の言葉のひとつひとつが、かつて家内が放った言葉に重なっていく。

「どうしていいか、わからないの」

「ちゃんとしなきゃダメだから。ちゃんとするの」

「もっとうまくやりたかったの。でもうまくできなくて」

「好きな人と通じ合っているかわかんない。ちゃんと横にいてくれてるのに、私のためにいてくれてるのかわかんない」

「どうして私といるの?」

男は淡々と言葉を返す。

「みんなに嫌われてもいいじゃん」

「好きだから一緒にいたいと思うよ。おまえがおらんようになったら困るし。ちゃんとせんでもいい。一緒におってくれ」

「ごめんな。ごめん」

リリー・フランキーが、まるで役柄ではなく自分本人のように朴訥とした調子で言葉を重ねる。あの頃の俺のように。

鬱の女が吐き出す言葉。隣にいる男が返す言葉。どれもが、同じだった。

自分で言うのもなんだけど、どうしようもない男は、どうしようもなくやさしい。

自分の弱さを、誰よりも知っているから。いつまでもガラスの十代みたいな、痛がりだから。

それはやっぱり、どうしようもない男だということ、なんだけども。

女は鬱を乗りこえ、やがて自分の生きる道を見つけていく。

そこからの木村多江は、本当に眩しく、輝いて見えた。

自分独りでいろんなことを背負って、歯を食いしばってがんばってきて、ぶっ倒れて、がんばってもがんばっても苦しくて、ああ、独りじゃ生きていけないんだ、って気づいた女が、新しい世界、無理してがんばらずに好きなことを楽しんでいい世界、に一歩踏みだした、その清々しい顔は、まさに俺の隣にいる女と同じだった。

後で知ったんだけど、監督の橋口亮輔さんが、この映画の前に鬱になってたんだってね。そりゃ真に迫る演出でしたよ。

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表題の『ぐるりのこと。』っていうのは、俺たちのまわりをぐるりと囲む人たちや環境、出来事のこと。

俺たちのまわりには、家族や親友などの小さな「ぐるり」があって、職場や友人知人などの中くらいの「ぐるり」があって、もっと広い社会という「ぐるり」があって、いつもそういう大小の「ぐるり」のなかを、往ったり来たりしながら生きてる。

どっちが大事って話じゃなくて、そういうことだっていうのが、じわっと入ってくる。

リリーさんは法廷画家の役なので、90年代に実際に起きた数々の事件(幼女連続誘拐殺人事件とか地下鉄サリン事件とか)をモチーフにした裁判に立ち会って、社会的な「ぐるり」を眺める一方、家に帰ったら、子を亡くし心を閉ざした妻との「ぐるり」を生きる。

なにか具体的なメッセージが込められた作品というより、人生とはそういうもの。生きるってそういうこと。っていうのを、じんわりと教えてくれる作品だった。

キャッチコピーは「めんどうくさいけど、いとおしい。いろいろあるけど、一緒にいたい」。

夫婦とか人って、そういうもんじゃないだろうか。

イヤなこともあるけど、生きるのっていとおしい。

不幸や不運を嘆いたり遠ざけたりするんじゃなくて、そういうものだ、っていう姿勢で、生きていく。それで、いいんじゃないかな。いろいろあるけど、しあわせに。

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