180s1

さっき、ひさしぶりに『180° SOUTH(ワンエイティ・サウス)』って映画を見てたんです。

60年代に南米パタゴニアを旅した二人の記録映像を見て感化された青年が、彼らと同じ軌跡をたどるっていうドキュメンタリーで、ガチでアウトドアにいかれちまった男たちの記録です。

アウトドアなんて呼ぶのは生ぬるい、本物の自然にいかれちまった二人の青年は、その後『ノースフェイス』と『パタゴニア』っていう世界的アウトドア・ブランドを立ち上げるんですね。

つまり『ノースフェイス』の創業者__ダグラス・トンプキンズと、『パタゴニア』の創業者__イヴォン・シュイナードのノン・フィクション映画なんだけども、イヴォンたちはいくつになっても過酷な冒険をやめないんですね。

180s2

ある夕暮れ、旅先の水際で、ハマグリみたいな貝殻をたき火で焼いて、ナイフでほじくって食べながら、70歳のイヴォンは言います。

「今私がいたい場所は、ここだ。未来でも過去でもない」

貝殻に口をつけて

「汁もうまい」「たしかに」

と言って笑う。

「私は幸せ者だ。

今度の11月で70歳になる。

自分の人生に後悔はない。

この瞬間を、大切にしたい」

世界の冒険家の憧れのようなじいさんが、黄昏時の淡い光に包まれながらそう言う姿は、やたらと様になっていてカッコいい。

とくに「この瞬間を、大切にしたい」が、くっと胸に響く。

きっとイヴォンじいさんは、いつも「この瞬間」を大切にして、それを積み重ねてきたからこそ、後悔のない人生を送れたんだろう。

けれど、「この瞬間(今)を大切にする」っていうのは、目の前にあることを一生懸命がんばるとか、悔いのないようにめいっぱい生きる、なんて力むようなことじゃないんじゃないかな。

だってイヴォンじいさんが大切にしたいと言った瞬間って、ハマグリの煮汁を啜った瞬間のことだぜ。

ちょうど僕は風呂上がりで、ビールを飲みながら映画を眺めてた。

梅雨のじめっとした空気のなかで、たっぷり汗をかいたグラスのビールをくいっといっきに飲み干すと、そりゃあ涙が出るくらいうまかった。

こういうのが、この瞬間だろうよって思った。

ただ、目の前にある自分の好きなもの、大切なものを、しっかりと味わうこと。喜びも、そして哀しみも。

だから明日のことを考えるのはやめて、ママのつくったカレーライスをみんなで食べて、新しい水着を買ってもらって喜ぶ娘たちの話を聞いて、早々にベッドに入った。

特に何をしたっていう日じゃなかったけれど、なんだかしあわせで、満ち足りた気分だった。

数年前に、ダグラス・トンプキンズがカヤックの事故で亡くなったという。大好きな大自然のなかで、そりゃあしあわせだったことと思う。