映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、金に対する僕らの偽善を容赦なく眼前につきつけてくる。
80年代のアメリカに実在した株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートは、巧みな話術と常識外れな発想で一夜にしてウォール街の寵児となり、巨万の富を得る。だがやがて彼の破天荒なやり方はエスカレートし、巨額の投資詐欺の罪で逮捕・投獄されてしまう。
「ウォール街の狼」とまで呼ばれた悪党を牢獄に押しこんだFBI捜査官は勝利に酔いしれたが、みすぼらしい格好で薄汚れた地下鉄に乗るくたびれた自分の姿にうつむいてしまう。
「もしかしたら俺は、正義を貫くより、あいつの言うままに買収されたほうが幸せになれたんじゃないか」彼の虚ろな瞳はそう語る。
一方、成功とドラッグと女に狂ってすべてを失ったかに見えたベルフォートは、司法取引で刑期はたったの三年に短縮。投獄中も金にモノをいわせた快適な暮らしをおくり、出所してからはセミナービジネスや作家業で荒稼ぎをして悠々自適に生きのびている。
ベルフォートがセールス・セミナーに登壇するラストシーン。聴衆は一様に恍惚とした表情の中に瞳を輝かせながら、ベルフォートの次の言葉を待っている。どうやったらうなるような金が手に入るのか。彼らの頭にはそれしかない。
FBI捜査官の虚ろな瞳と、ベルフォートの自信に充ち満ちた笑顔が僕らに問いかける。
ウォール街の狂った狼と僕らの間に、どれほどの違いがあるだろうか。
あなたはこの映画を見終わった後でも「金がなくても幸せだ」と言い切れるだろうか。