若い頃から独り旅に出たいと思っていた僕がようやくその夢を叶えたのは、つい先月のことだ。
僕はオートバイキャンプ用の道具をひととおり買いそろえると、家内に「いつ戻るかわからない」と言った。彼女はやさしく微笑んで送りだしてくれたけれど、僕はそんな物わかりのいい家内と三人の子どもたちが心配で、けっきょく一週間ほどで家に帰ってきてしまった。
映画『イントゥ・ザ・ワイルド』は、タイトルどおり、ある青年が独りで大自然の中に入っていく物語だ。両親の不仲や家庭内暴力などが日常茶飯事の複雑な家庭に育ちながら、優秀な成績でカレッジを卒業した主人公・クリスは、ある日突然姿を消し、すべてを捨てて、アラスカへ旅立ってしまう。
クリスはカレッジで勉強しながらも、ずっと独りで旅に出ることを計画していた。裕福な家庭と物質社会と両親のエゴを憎み、自分一人の力で生きていくことを夢見た彼は、預金をすべて寄付し、車とIDを捨て、財布の中のお金まで燃やして、ヒッチハイクをしながら6000km先のアラスカを目指す。
僕はクリスと違ってすべてを捨てて旅に出たわけではないが、現実から離れるために旅に出た、という点では彼と共通している。だから彼が旅に求めることが自分のことのようにわかったりもする。
そもそも僕やクリスに限らず、人は現実から離れるために旅に出るのだろう。
旅に出るためには、それなりの休暇を取らなくてはならないし、お金もかかるし、子どもがいたりしたらなかなか難しいかもしれない。けれどもしあなたが、しばらく旅をしていないのであれば、どうにか工面して、多少無理をしてでも、ここではないどこかへ旅立つべきだ、と僕は言いたい。
できれば行ったことのない場所がいいだろう。知らない街。聞き慣れない言葉。はじめての匂い。外国じゃなくたって、日本にもそういうところはたくさんある。究極はこの映画のようなワイルドなアラスカの森だが、どこか静かな湖だって山だって、日本にもワイルドはたくさんある。
旅は、きっとあなたをやさしくしてくれる。ちょっとだけまともになって帰ってこれる。このクソみたいな素晴らしい世界に。
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