大沢在昌さんのハードボイルド小説『新宿鮫』シリーズって知ってますか?

第一作は一九九〇年発表なので、もう二十六年にもなるんですね。本作は吉川英治文学新人賞をもらって、真田広之さん主演で映画化もされています。二作目以降は舘ひろしさん主演でテレビドラマ化されたり、マンガにもなったり、第四作『無間人形』は直木賞を受賞。最新作の『絆回廊』は「ほぼ日刊イトイ新聞」に連載していたというから驚きです。

って、ここまではぜんぶWikipediaからコピーしただけですが、いろんなメディアで作品化されて一世を風靡した小説だということがよくわかります。

ぼくは大学生の頃、四作目くらいまでは読んだと記憶してるんだけど、大沢在昌さんが林真理子さんとかと複数でやったトークイベントの対談集をこの前読んで、ひさしぶりにKindleで買って再読してるんです。

二十六年前の物語なので、時代背景や文章もちょっと古いんだけど(携帯電話がショルダーフォンですからね……平野ノラか笑)、それでも王道の刑事もので、とってもおもしろいです。

ただ、いつも思うんだけど、この時代に、いったい誰がこういう小説を読むんだろう?

大沢在昌さんに限らず、日本のハードボイルド小説の雄である北方謙三さんとかもそうだけど、ぼくのまわりに、こういう犯罪もの刑事もの、もっと言えばエンタメ(娯楽)小説を読んでる人っていないんですよね。もしかしたら読んでいるのに言わないだけかもしれないけれど。

本を読む人はたくさんいるけど、だいたいはビジネス書や新書で小説なんてあまり読まない。読んでいても村上春樹さんとか中村文則さんとか文学の匂いがする作家ばかりで。

ぼくが大学生の頃読んだのだって、花村萬月さんが好きだったから、その流れでエンタメ小説を読みあさっていたからで、そういうことがなかったら、ぼくの人生に「新宿鮫」が入ってくることなんてなかったと思う。

でもおもしろいんですよ、エンタメ小説って。石田衣良さんも言ってたけど、小説ってなにも壮大な人生のこととか哲学とか人間の苦悩ばかりが書かれたインテリのための崇高な芸術だけでは決してなくて、なにも考えずに楽しめる「娯楽」として、映像やマンガでは描けないところがあるんです。「文学」ではなく「文芸」の成せる技が、ある。男の子なら、ハードボイルドの一冊くらい死ぬまでに読まなくっちゃ。

大沢在昌さんは知らなくても、宮部みゆきさんの『模倣犯』なら聞いたことがあるでしょう。中居くん主演で映画化されたし。あれくらい何百万部も売れないと、ふだん娯楽小説を読まない人のところまでは届かないんですよね。『君の名は。』があれだけヒットしたのも、ふだんそんなに映画を観ない人のところまで届いた「お祭り」になったからですし。

この前、ひさしぶりに三谷幸喜さんとか野島伸司さんとかの九十年代ドラマを見たくなってツタヤに行ったんだけど、『王様のレストラン』も『ロンバケ』も『人間・失格』も置いてなくて、しょんぼりして帰ってきました。

最近はNETFLIXとかhuluとかの映像配信サービスも隆盛だし、ネットになくてもツタヤに行けばあるだろうと思っていたんだけど、ツタヤの棚は韓流や海外ドラマに面積を取られて、邦画や日本のドラマなんて隅っこにほんの少しあるだけですよ。アダルトコーナーのほうが大きいんじゃないかコノヤロー。

以前ある脚本家の方が言ってましたが、かつてDVDもVHSもなかった時代の映画とかテレビドラマって、たった一度しか見ることのできない「永遠の一瞬」だったんですね。だから脚本家は、作品がいつまでも残る小説家に憧れていた、みたいなお話で、それはたしかにそうだろうなと唸りました。

でもツタヤ行っても、『新宿鮫』だって置いてないんだもんなあ。Spotifyとかの音楽配信もそうだけど、そのメディアに選ばれなかった作品は「はじめからなかった」ことにされる時代になりつつあって、ちょっと怖いですよね。残るのは売れるものばかりになっちゃって。

ちなみに最近は、ツタヤで借りてきた『池袋ウエストゲートパーク』や『古畑任三郎』を見てます。もちろん売れるものだっていいものはたくさんあります。