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木曜日は、朝から少し気が楽だ。アンを犬の幼稚園に連れていき、そのままドッグランのホテルに二晩預かってもらうからだ。

アンとの暮らしはエネルギッシュで楽しいものだが、たまには私もオテンバワンコの世話から解放されたい。幼子を抱えた母親はこんな心境なのかしら、とふと思う。

アンとドッグランまで散歩して、春の晴れた朝の陽光の下を歩くのは気持ちがよかった。犬を散歩している人もたくさんいた。

家に帰ると、これから一人の時間を持てるのだという清々しい気持ちと、少しの寂しさが漂っていた。

洗濯物を干し、洗い物を片づけ、ゴミ出しをして、iMacに向かった。少し仕事をし、少し本を読み、少し新しいことに挑戦したが、すぐに疲れてしまった。

ひさしぶりの友人からLINEが届いて、春の風が吹いた気がした。

昨日までの雨がやっと上がっていたので、自転車で家を出る。サドルやハンドルに黄色い粉がまとわりついている。花粉なのか、中国から黄砂が舞ってきているのか。見れば車もウッドデッキも黄まみれだ。

昼時だったが、あまり腹は減ってない。コンビニのサンドイッチくらいでいい。でもせっかくだから、うまいもんを食おうか。

昨日寝る前にベッドで見た『シェフ』という映画の影響かもしれない。食べものがうまいってのは、人をしあわせにするよな。

クロワッサン・サンドとカフェ・オレ、__みたいな気分だけど、駅にあるあのカフェは狭いしちょっと落ちつかないんだよな。

やっぱり、昨日フラれた〈日比力〉で炒飯セットか。おや、でも昨日も一昨日もラーメンじゃなかったっけ?

まあいい。食べたいものが出てきたってことは、元気になってきている証拠だ。今日は日比力な気分だもの、タンメンな気分だもの。

茅ヶ崎駅北口を出て、新しくできた商業施設を横目に階段を降りる。通りの入口にある〈横濱飯店〉には相変わらず長い行列ができているが、日比力はわりと空いていた。

横濱飯店のパンチのある肉そばやシイタケそばもいいけど、最近は年のせいか、日比力のやさしい味を求めてしまう。

タンメンと三個餃子。うん、いいね。タンメンの濁った灰色じみたスープ、豚肉、キャベツ、ニンジン、もやしの歯ごたえ、昔ながらの細中華麺。餃子も熱々で旨い。

五年前に死んだ親父は、餃子を食うときいつも、__お酢が好きなんだよなあ、と独りごちながら、お酢と醤油を3:1くらいの割合にして食べていたっけ。

ふとそんなことを思い出しながら、私もほんのり醤油が香る程度のお酢につけて餃子を頬ばった。

向かいの席では白髪の老夫婦が静かに食事をしている。

一人で入ってきた若い女性が隣の席に着くなり、「サンマーメンください」と注文する。一連の流れがスムーズでなんだか格好いい。

食べ終えた老夫婦が席を立った。静かで上品でやさしそうな雰囲気の夫婦だ。あれくらいの白髪になるまで連れ添うもんだと、当たり前に思ってたんだけどな。

夫が先に店を出て、奥さんが支払いをする。静かだと思っていた奥さんが、店の女将さんと猛烈に話しはじめて、その五月蠅さに思わず苦笑する。

ふう。旨かった。さて、どうしようか。空はまたどんより曇ってきたけど、中央公園でひと休みしようか。ネットで見かけて気になったあの南仏の本、ブックオフにあったらいいな。後で行ってみよう。