RRAW 1387

やっと晴れた。そして気温が高い。それだけで、なんと幸福なことか。

病気になってから10kgほど痩せたので、以前より寒がりになって、とにかく暖かいというのが嬉しい。晴れていて、気温が高い。それだけでまるもうけな気分。

とはいえ、私の中から痛みや哀しみが消えたわけではない。思い出せばいつだって一瞬で泣ける。以前と変わったのは、それでいい、と思えるようになったことだ。

私の中には影があり、傷があり、闇がある。それでいいじゃないか。闇があるから、光もある。沢庵和尚の言葉が身に沁みる。

今日はお義父ちゃんの命日だった。私が大好きだった、もう一人の父親。彼女がおとうちゃんと呼んでいたので、私もそう呼ぶようになっていた。

お義父ちゃんは最初から最後までやさしかった。すべてを許してくれる人だった。そして、家族のため、人のために生きた人だった。私は心のどこかで、お義父ちゃんみたいな父親になりたいと思っていた。

午後になって、家を出た。頭が重く、体調が悪かったが、晴れていて、気温が高い。お義父ちゃんがそうしてくれているような気がした。

上野駅から、仏具店が並ぶ広い国道を歩く。汗ばむほどの陽気だ。合羽橋商店街を過ぎると、やがて左手に東本願寺の荘厳な建物と緑の眩しい大樹が見えてくる。

広い境内に入ると、春の風が私の全身を包んだ。ここに来ると、いつも心がすっとラクになる。

受付で名を告げ、エレベーターで四階に上がる。一人だけいた参拝客が帰ると、清潔な待合室は私だけになり、ひっそりとした静けさだけが残った。

やがて館内放送がかかり、モニターに参拝の案内が表示される。部屋に入り、ボタンを押すと、自動扉が開いて、お義父ちゃんの骨壺が現れる。

他に誰もいないので、私は声に出してお義父ちゃんに話しかけていた。

お義父ちゃん、ごめんなさい。あなたの娘を、私はしあわせにできませんでした。でも、彼女は私をしあわせにしてくれました。この二十数年間、私は彼女と子どもたちに囲まれて、本当にしあわせでした。彼女は本当によくしてくれました。あなたと同じで、__大切なものを大切にし、大切な人を大切にできる、彼女はそんな素敵な人でした。

私は、あなたや彼女のように、大切なものや大切な人を大切にできませんでした。でも、今、一人になって、ようやく、かつてそのように生きていた自分を取り戻そうとしているような気がします。私は彼女に出会えて本当によかったと思っています。私の人生に現れてくれて、結婚してくれて、最後に私を一人にしてくれて、そのおかげで、やっと私は、本来の私、私のことを好きな私に、戻れるような気がしています。ごめんなさい。そしてありがとう。

ボタンを押すと、自動扉が閉じた。エレベーターでロビーに降り、受付の女性に頭を下げる。外はあいかわらず気持ちのいい風が吹いていた。私はようやく泣くのをやめ、春の陽気の中を歩きだした。

街中を歩きながら、ハナミズキの花を探していた。お義父ちゃんが亡くなったとき、家の近くにハナミズキが咲いていたのだ。上野の通りにはどこにも、ハナミズキは見あたらなかった。

東海道線に揺られ、茅ヶ崎駅に着くと、ブログを通じて仲良くなった地元の友人と待ち合わせていたのだが、とり介北口店は閉店していて、急遽、南口店に向かった。

金曜の晩なので混雑していて、私たちは通りに面した外の席に座った。バーベキューをしているみたいだったし、焼き鳥はあいかわらずおいしかった。

名物であるふわふわの白レバー、脂がほどよいぼんぼちも旨いが、私がここで一番好きなのはゴボウの唐揚げだ。

あいかわらず頭が重く、体調もいまいちだったが、それも生ビールと焼き鳥で少しずつ消えていった。まだ夕暮れどきは肌寒かったが、確実に春が来ているのだと思った。

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