「最近は無料で読める電子コミックがけっこうあるらしい」というので、探してみたらこんな漫画を見つけた。
表紙やアイコンが18禁ぽいけど、中身はエロじゃなく、漫画家による漫画家の漫画。やたらと画がうまいので読み進んでいるうちにハマってしまった。
これは、イラスト投稿サイト『Pixiv』から連載の夢を勝ちとった、ある売れない三十路漫画家のサクセスストーリー(実話)である。
【マンガ全巻無料】ハナムラさんじゅっさい 1.0.2(無料)
カテゴリ: ブック, エンターテインメント
販売元: Amazia, Inc. – Amazia,Inc(サイズ: 7.8 MB)
全てのバージョンの評価: (2,008件の評価)
主人公は作者である漫画家「ハナムラ」三十歳。ほぼ実録。
ハナムラはアラサーの売れない新人漫画家。家業を継ぐか漫画をつづけるかまごまごしているうちに、同期や後輩たちはどんどん連載デビューして、彼女にも愛想を尽かされてしまう。
という、ありがちなダメ男が、美人編集と新しい境地に挑戦して成長していく、というド王道なストーリーだけど、画のうまさとテンポの良さで気がついたら読みふけっていた。
なによりこの物語が、作者ハナムラの実際の経験を元にしたほぼノンフィクションだからおもしろいのだろう。
「自分の半生を描けば、誰にだって一冊の小説が書ける」というやつだが、もちろん表現力や展開力がともなってこそだ。
『ツルモク独身寮』の窪之内英策や、『スラムダンク』『バガボンド』の井上雄彦が好きな僕にとっては、すごく好きなタイプの画で、読んでいて気持ちがいい。
本作中にも井上雄彦的表現がちらほら見られるんだけど、それはこの作家に限った話ではなく、多くの漫画家が影響を受けているのでしょうがないというかなんというか。スラムダンク以降、いろんな作品で桜木キャラとか流川キャラとかいきなり増えたもんね。
イラスト投稿サイトから夢を叶えたという本物のサクセス。
そもそもは、作者がイラストを軸にしたコミュニティサイト『Pixiv』にこの漫画を投稿したことがすべての始まりだ。だから全編鉛筆による下書きみたいなタッチだし、台詞もすべて手書きのままだ。個人的にはこのペン入れをしていない画が味があって好きだ。
抜群の画力と軽快なテンポと可愛い女の子キャラが受け入れられてネット上で人気が出た結果、ついには連載、単行本化、iPhoneアプリにまでなってしまったという。
これは多くの人が夢見る現代のシンデレラストーリーのひとつだろう。
作品のクオリティさえ高ければ、持ち込みや営業をしなくても、Webに公開しておけば編集さんのほうから連絡が来て、あれよあれよという間にデビューみたいな、順序をふまない夢のような展開。
小説家志望やイラストレーターの卵、あるいはブロガーだって、心のどこかでそんな漫画みたいなストーリーを描いているに違いない。
ただもちろん、向こうからやってくる幻を待っていて世に出れるほど世界はスウィートではないし、それにはとてつもないクオリティが必要になるのは言うまでもない。経験という財産を、作品に昇華させる技量が大切なのは、どこで何をしていたって変わらない。
いずれにせよ、ハナムラさんの本当の作品を早く読んでみたい。少年誌復活、楽しみにしています。