ここ数年、ビジネス書や実用書、自己啓発書をたくさん読んでいる(なんてことを他人様に開陳してしまうことへの羞恥心はいまだ消えないけれど)。
「〇〇な文章を書くためのテクニック」なんて具体的で矮小なテーマのものから、「人生を変える〇〇の法則」なんていう根源的な生き方の本まで、まあいろいろと読んできたけれど、つまるところどの本も、だいたい同じようなことを言っているのだなあ、と感じることがままある。
先日、お坊様のお話を聞く機会があったのだけれど、そのありがたいお話の内容が、僕が読んできた書物やセミナーなどと重複していて、びっくりしてしまったので、いくつか紹介してみる。
南無阿弥陀仏は感謝の言葉。
お坊様は言った。
「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)というのは、元々の意味は違いますけれども、あらゆることに感謝しよう、ありがたい、ありがとう、という意味だと思ってもらってかまいません。
朝、ごはんを食べられることにありがとう、お皿を洗いながら蛇口から出てくる水にありがとう、元気に仕事や学校へ行けることにありがとう、と、毎日の生活のすべての瞬間に感謝するという習慣。それが、南無阿弥陀仏なんです。
ですから一日に何度でも、何かあってもなくても、この言葉を思い出し、口に出すことで、毎日が元気溌剌に、輝きだすのです。
感謝は、生きる力になりますから。」
何年か前、人生をあきらめてしまいそうなくらいに落ちこんでいたとき、僕を救ってくれたのは『ザ・シークレット』という本だった。
いわゆる「引き寄せの法則」を軸にした世界的な自己啓発書なのだが、著者のロンダ・バーンさんはこう言っている。
「この本にはたくさんの秘密が書かれていますが、たったひとつだけ選べと言われれば、私は『感謝』を選びます」
古今東西の人生の法則を網羅してまとめたこの本の、最も重要な法則は『感謝』だと言うのである。
修行に正しいも間違いもありません。すべてが正しいのです。
「よりよい人生を生きるために、毎日は修行の連続ですが、ときには失敗もあるでしょう。
やらなければよかった、すべては無駄だった、と悔やみ、自分は駄目だと落ちこんでしまうことがあるかもしれません。
けれど、修行には正しいも間違いもないのです。浄土へゆくまでの修行はすべて正しいのです。」
ここ数年だけを思い返しても、後悔や反省は尽きない。あのときああすればよかった、やらなければよかった、と悔やんでは、どうにか前を向くのだけれど、先日、僕が自分の失敗をFacebookで吐露したら、敬愛する人生の先輩がこう書いてくれた。
「プロセスはすべて正しい」
たった一言だったけど、グサリと刺さって、瞬く間に僕は前を向いていた。
失敗や挫折は問題ではないのだ。ゴールへ向かうプロセスはいつだって正しいのだ。
人生に正解はない。
他にもいくつかあったのだが、あまり聞く機会のないお坊様のありがたいお言葉の数々が、最近読んできた書物や学びと、あまりにも重複していて驚いてしまった。
考えてみれば、そもそも自己啓発書というのは、先賢の智恵や知識を独自の解釈と手法で再構成している(ものがほとんどな)わけだから、何千年もの歴史を持つ仏教の教えが含まれているのは当然のことだろう。
やわらかな笑みを浮かべる義父の遺影を眺めながら、お坊様の言葉を噛みしめていたら、人生について考えてしまった。
やさしかった義父が人生でやってきたことは、正しかったのだろうか。惜しみなき家族への愛情はまっすぐ伝わっているのだろうか。
いろんなことを考えてしまったけれど、ただひとつ言えるのは、人生に正解はない、ということだ。
過ちや失敗があっても、そこからまた立ちあがればいい。だから明日からも、前を向いて歩こう。
人の旅立ちは、そういうものをくれる。
2014年4月27日。午前11時24分。陽のあたるキッチンテーブルにて。