こんなに期待しないで観た映画もめずらしいんだけど、そんな映画にこんなに心を揺さぶられるとは思わなかった。
前作も観てないくせに、せっかくの休みだし他に観たいのもないし、IMAX 3Dだからそれなりに楽しめるだろう、くらいの気持ちで観た「アメイジング・スパイダーマン2」が、もう本当に素晴らしくてうおおおおおおお!とエキサイトしてしまった、と言ったら、あなたは信じるだろうか。
IMAX 3Dはやっぱりすごかった!
まずはじめに言っておきたいのは、やっぱり「IMAX 3D」は素晴らしいということだ。
「映画史に残る大事件!『ゼロ・グラビティ』を3Dで観なかったあなたは死ぬまで後悔するだろう。」にも書いたとおり、とてつもなくハイクオリティな3D映像と音響がもたらす究極の臨場感で、僕らは知らぬ間に映画の舞台に立っている。これ比喩じゃなくてマジで!(まあ比喩だけど)
たとえば冒頭の飛行機内のシーン。パーカー博士がプライベートジェットの中で悪者と格闘するんだけど、僕自身がその飛行機の後部座席から覗いているかのような臨場感なので、暴れたり発砲したりする度にいちいちハラハラドキドキして、「危ねえじゃねえか!」とつっこみたくなるほど。
たとえば主人公ピーターが恋人グウェンと夜の中華街で話すシーン。僕自身がその通りに立って遠くから2人を見ているようにリアルなので、愛しあっているのに別れを決意する恋人たちの切なさが猛烈に身に沁みてくるの。もう切なくて切なくて。
逆に言えば、これIMAX 3Dじゃなかったら、こんなにも心にぐいぐい食いこんではこなかったのかな、と思ってもしまうんだけど、とにかくもしチャンスがあるならば、是が非でもIMAXの劇場を選んでください。個人的には最低でも普通の3D。『ゼロ・グラビティ』のときにも書いたけど、こういう作品は2D上映はやめましょうよ、なんて思っちゃう。4DX上映もあるみたいだけど、ハードなアクションの連続だし二時間超の長い映画だから、観てる方もスパイディ並に疲れちゃうんじゃないかな。
スパイディの視線で空を飛びまわる。
でもって、アクションシーンがすんごいんですよ。冒頭からスパイディが摩天楼の隙間を縦横無尽に飛びまわるんだけど、視点が同じなものだから、自分が本当に飛んでいると錯覚してしまうほどリアルで、ちょっと酔っちゃうかも。
もう最近の映像技術には驚かないぞ、と思っていても、息もつかせぬアクションにはただただ感心するばかり。
いつでも軽口を叩く明るいヒーロー
僕が個人的にいいな、と思ったのは、はじめから終わりまで、スパイダーマンがいつも軽口や冗談を言いながら、ひょうひょうと戦うところ。
スーパーマンやバットマンなど、最近リメイクされてるアメコミヒーローってダークな側面ばかり描かれていてシリアスな顔ばっかしてるんだけど、スパイディはどちらかというと軽くてチャラい。
じつは物語の軸となるピーターの喪失感や孤独感は他のヒーローたちよりもずっと深くて切ないんだけど、彼はスパイダーマンになったら、そういう暗さを一切見せない。人々に希望を与えるヒーローは、いつもマスクの下では唇を噛みしめて、冗談ばっかり言ってみんなを笑わせる。
その明るい姿が、ラストに近づくにつれてだんだん僕の中で感動に変わっていくんだ。
君を愛している人がたくさんいるんだ、ということを教えてあげたい。
さえない電気技師マックスは、マジメなのにみんなに蔑ろにされて、誕生日も一人で祝う孤独で不器用な男。ここ最近は誰からも名前で呼ばれることもない。そんな彼はある日、スパイダーマンに命を救われる。
スパイダーマンは「マックス、この街には、君の助けが必要なんだ。」と言って去っていく。
スパイディはマックスが胸から提げた社員証から彼の名前を知り、ちょっとしたジョークのつもりでそう言ったに過ぎないのだけれど、承認欲求の塊であるマックスは、すっかり彼の狂信的なファンになってしまう。
ちょうど最近、世界最高のコーチ・アンソニー・ロビンズの著書を読んでいたせいか、僕はこのへんのやりとりにガツン!とやられてしまった。
いつも不平不満が渦巻いていたマックスだったが、誰もが憧れるヒーローであるスパイダーマンに認められ、しかも名前で呼ばれて、街の平和を託されたことで、積極的に生きる活力を得て、以前より前向きにすごすようになるのだ。
「君が必要なんだ」「君を愛している人はたくさんいるんだ」
というメッセージは、アンソニー・ロビンズが生涯をかけて伝えているメッセージそのものじゃないか。
けれどマックスはスパイディへの狂信から正気を失った挙げ句に、不慮の事故で電気ナマズの怪物エレクトロとなってしまう。ああ不憫。なんたる不憫。あまりにも不憫。
後半で、ピーターへの復讐を企てるハリーに手を組もうと持ちかけられて迷うマックスだが、ハリーに「君が必要なんだ」という必殺の台詞で執拗に言われて、けっきょく仲間になってしまう。
人の幸福は、誰かに必要とされることだ。それは間違いない。
ピーターに比べれば、たいていのことはどうでもよくなる。(ネタバレ注意)
はっきり言って、ピーターほどかわいそうな奴はいませんよ。
だって両親に捨てられて、親友には誤解されて挙げ句の果てには己の手で殺してしまって、なんと心の支えだった最愛の彼女まで失ってしまうなんて!
ていうか、まさかグウェンが死んじゃうなんて!
僕は彼女のお葬式のシーンになっても、まだ信じてませんでしたよ。
グウェン役のエマ・ストーンさんていう女優さんは、眼がギョロリと大きくて、ちょっとクセのある独特な顔をしてらっしゃるから、前シリーズのヒロインを演じたキルスティン・ダンストと同様に「また絶世の美女じゃない微妙なところを配役したなあ」と思っていたんだけど、そのチャーミングな笑顔と仕草にだんだん引きこまれて、映画の途中からはグウェンの姿ばかり追ってしまうほどになってしまった。
そんなこともあってか、二人でイギリスへ行って暮らそうとせっかく決意した矢先に、まさかの帰らぬ人となってしまって、ピーターどころか僕も呆然。嘘やん!
僕は一生をかけて、スパイダーマンになりたい!
最愛の人を失ったピーターはショックのあまりスパイダーマンになることなく、来る日も来る日も墓前に立って哀しみに暮れているのだけれど、ある日、グウェンの卒業式のスピーチ映像を見る。
「暗い日もあるでしょう。寂しい日もあるでしょう。でもどんなに辛くても、あなた自身が希望になってほしい。今日まで学んできたことは、明日に活かされます。あなたが何をすべきなのか、考えて行動してください」
「希望を捨てず、苦しみに負けない強さを持つのです。たとえ失敗に終わっても、大切なもののために戦う、それこそが最高の生き方です。」
彼女の言葉に奮い立ったピーターは、ふたたびスパイダーマンとなって街へ出て、以前と同じように軽口を叩きながら悪者をやっつける。
いやいやいやいや、強すぎるでしょピーター!無理でしょふつう!
と、以前の僕ならそう思っていただろうけど、年齢的なこともあるのか、父親としての責任感が(ようやく)芽生えてきたのか、素直に「スパイディ超カッケー!」と眼をウルウルさせてしまいました。
あ、これが本物のヒーローじゃん!しかもがんばれば僕だってヒーローになれるじゃん!
犯罪や自然災害に見舞われた世界がどんなに暗くても、辛くても、僕自身が家族や友人やまわりの世界の希望になればいい。
今日まで学んできたことは、これから僕が希望になるために活かされる。
そう考えたら、僕自身の中にこそ生きる希望が沸々と溢れてくるわけです。
たとえ失敗に終わっても、大切なものを信じて生きることこそが、最高の生き方なんだと。
声高に宣言するにはあまりにも気恥ずかしいけれど、でも心のずっと奥の方から、まっすぐにそういう衝動が這いのぼってきてしまったのだ。
家庭でも、仕事でも、人間関係においても、社会との関係性においても、自ずとやるべきことが見えてくる。
人を喜ばせて、人を幸せにして、笑顔をもたらすのがヒーロー。いつも笑って、まわりを明るくさせて、バカばっかり言ってるのがヒーロー。
そんなヒーローに、僕はなりたいよ。
そんな夢みたいなことを真剣に考えさせてくれただけでも、この映画はまさにアメイジング(素晴らしい)!!でした。