『岳』山も人生も半分半分。大盛のナポリタンを食べて、まっすぐ上を向いて。

岳 -ガク- Blu-ray通常版

「そこに山があるから」という登山家の有名な言葉がある。

無知な僕は植村直己さんの言葉だと思っていたのだが、どうやらべつのイギリスの登山家が言ったらしい。あなたはなぜ山を登るのか?という問いは、山を登ったことのない者なら誰もが思うことだろう。

日本でも毎年数千人が遭難し、数百人もの人が山で命を落としているのに、それでも人は頂を目指す。ほとんど登山経験のない僕はその理由が知りたくて、山に登ってみたいと思う。

映画『岳』の舞台は北アルプスだ。冒頭からその美しい雪景色に目を奪われる。日本にもこんなところがあったのかと、思わずうなってしまうほどにただただ白い雪原と、抜けるような青空と、刃物のように尖った山脈。

Snow and shadows
Snow and shadows / Matei D.
 

主人公・島崎三歩(小栗旬)は、そんな山に住む変人だ。若くして世界の名峰に登頂した山岳のプロフェッショナルは、岩肌にテントを張り、パーコレーターで湧かしたコーヒーを飲みながら、雲の上からたった独りで世界を見下ろしている。

その姿はとても健やかで、凜として、人と人の間で心をちぢませながら生きる僕から見ると、ひどくまぶしい。一瞬こんな生き方もわるくないだろうなと思ってしまう。

けれど当然ながら彼の生活はレジャーじゃない。わずかな判断ミスが命取りになるシビアな世界で、踏みしめた地面がいつ崩れるかもわからない不安定な生活なのだ。

そんな危険な山に暮らしながらも、いかなるときも笑顔を絶やさず、まっすぐ上だけを見つめる三歩は言う。

「悲しいことがおきるのが山の半分、楽しいことがあるのも山の半分。ふたつ合わさって山なんだよ。生きるのも死ぬのも半分半分。でもどっちを多くするかは自分で決めることだよ」

登るも降りるも、笑うも泣くも、すべては自分次第。山岳救助でたくさんの生命を背負ってきた男の言葉には説得力がある。

物語は、長野県警の山岳遭難救助隊に配属された新入隊員・椎名久美(長澤まさみ)が、三歩や他の救助隊員たちと触れあいながらプロフェッショナルへと成長していく姿が描かれる。彼女がブリザードに見舞われた冬の北アルプスで奮闘する姿を見ていると、ふたたび疑問がよぎる。なぜ人は山に登るのか?登らなければこんなに苦労することはないのに。

一緒に観ていた家内は、鑑賞前は「登山やってみたい」と言っていたくせに、見終わってからは「絶対に登らない」と断言していた。僕は苦笑しながらも、山は本当に半分半分だなあと思う。

三歩や久美が、大盛のナポリタンを食べるシーンが出てくる。他にも食事のシーンはどれも大量で、山岳救助にはあれくらいのカロリーが必要なのだろうが、怠惰な生活で最高体重を更新しつづている僕には刺激的すぎる。

缅茨姆峰的日照金山
缅茨姆峰的日照金山 / utpala ॐ
 

三歩が言うように人生は半分半分だ。いいことが続くなあと浮かれていたら、あっという間にクレバスに落ちていたりする。

けれどそこから這い上がるのはいつだって自分だ。人生の遭難にも助けてくれる人はいるけど、まずはその前に、三歩のように自分をガチガチに鍛えあげて、毎日を全力で生きられる心とからだをつくろうと思った。

失敗や過ちを受け入れて、また力強く歩き出せるように。大盛のナポリタンを食べて、まっすぐ上を向いて。



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