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「ああ、なんて素敵な映画なんでしょう」

鑑賞後、まだ座席に座ったまま、思わず呟いてしまいました。

打ち震えるような衝撃は、ない。

けれど、静かな感動と共に、あらゆるシーンが明瞭に脳裡に浮かんでくる。これを書いている今でさえも。

決して出しゃばりすぎずに、じっくりと心に沁みいってくる。

映画って本当に素敵だ。人生もそう。素晴らしすぎて、敵わない。

素晴らし過ぎて敵わないのが、素敵

出しゃばりすぎない大泉洋

大泉洋が、いつもよりずっと素敵に見えたのは僕だけでしょうか。

 

本作での彼は、いつものようなコミカルな顔も出すんだけど、ずっとじゃないんです。

ボケたおすのかと思えばシリアスな瞳で語るし、マジメに見てるといつものトークと変顔で笑わされる。

作品自体も「たくさん笑えるんだけど、泣ける」というエンタメの極致みたいな出来です。もう原田監督あっぱれです。

舞台となる江戸時代では、まだ読み書きや言葉がそこまで浸透していないので、学のある信次郎(大泉洋)が教えてあげるシーンがあります。

「とても好ましいことを、素晴らしいと言うんです。素晴らしすぎて敵わないことを、素敵って言うんです」

美しすぎる戸田恵梨香

そんな大泉洋と同じくらい素敵だったのが、クズ男の妻で鉄練り職人・じょごを演じた戸田恵梨香

序盤は無口な職人気質のみすぼらしい女だったのが、心と体の傷が癒えて、生命力を取りもどしていくと、徐々に女らしさが溢れてきます。

序盤とのギャップがあるので、後半は戸田恵梨香の凜とした美しさを見ているだけで、息を呑むほどです。

役者がみんな好ましく愛おしい

満島ひかりもあいかわらずの存在感です。圧巻です。あの役はこの人じゃなきゃできない。

樹木希林、堤真一、キムラ緑子、木場勝己など、それぞれ自分の良いところをしっかり出せる配役におさまって、みんなで江戸時代ののほほんとした空気を作っています。

ゆっくり流れる時間の豊かさと、ただ生きていくことが難しい時代の厳しさの両方を、じっくりと見せてくれるのも本作の魅力の一つです。

江戸時代、離婚を望む女たちが、駆け込む寺があった。

物語

江戸時代、幕府公認の縁切寺として名高い尼寺の東慶寺には、複雑な事情を抱えた女たちが離縁を求め駆け込んできた。女たちの聞き取り調査を行う御用宿・柏屋に居候する戯作者志望の医者見習い・信次郎(大泉洋)は、さまざまなトラブルに巻き込まれながらも男女のもめ事を解決に向けて導き、訳あり女たちの人生の再出発を後押ししていくが……。

映画『駆込み女と駆出し男』 – シネマトゥデイ

「世間の夫は勝手に妻を離縁しても平気だが、妻にはそれができない」

鎌倉の東慶寺に駆け込んで事情を認められれば、夫は離縁状を書いて別れなければならないという幕府の決まり。

昨今は男女平等どころか、女性のほうが強い傾向があるので信じられないくらいだけど、女たちが長いあいだ虐げられてきたということが、リアルに伝わってくる。

東慶寺に駆け込む女たちの夫は、どいつもこいつもクズだ。

妻に暴力をふるい、女を連れ込み、働きもせず好き勝手に振る舞う男たちは、本当に最低のカス野郎ばかり。

けれどそんな屈辱と厳しさの中に、女性の強さと美しさが、控えめながらにも凜と見えてきます。

本当に強いってどういうことか?

本当の粋ってどういうことか?

本当の幸せって?

ということを、さりげなく教えてくれます。

この映画は、音楽もそうなんだけど、すべてがさりげないというか、押しつけがましくない。みんながみんな、でしゃばりすぎない。

だから、素敵なんです。

ここには、表現のひとつの理想があるような気がしました。

 

べったべった、だんだん

舞台は鎌倉です。じょごは七里ヶ浜に暮らしていたようだけど、話すのは出雲弁。島根県の方言ですごく可愛いです(戸田恵梨香だからかもw)。

「べったべっただんだん」というのは、出雲弁で「いつもいつもありがとう」という意味です。

詳しくは語りませんが、僕はこのシーンとこの音の響きにも、うるっときてしまいました。

人のことなんてかまっていられないあのつらい時代に、それでも人々は助けあって生きていた。

みんながみんなに、いつもありがとう、べったべっただんだんと声をかけられたら、僕らだって、どんな苦難も乗り越えられるかもしれない。そんな風に思いました。

鑑賞中に「もっともっと見たいな」「この映画このまま終わらなければいいな」と感じる映画は、ひさしぶりでした。

エンドロールと美しい音楽が流れているとき、ゆっくりと至福が身体に流れ込んできました。

本当に、あったかい気持ちになったんです。

ああ、なんていい映画なんだろう、って。

僕も、もっともっと人のために生きたいな、って。

幸せって、人のために生きることじゃないか、って。

日本はこういう映画を作ればいいんじゃないかって、嬉しくなりました。

本当に、本当に、素晴らしすぎて敵わない作品でした。

今でも予告編を見ると、胸がぽっと熱くなる

キャッチーなタイトルと、大泉洋のキャライメージで、もっと軽快なコメディを想像していたんですが、もっと超越した、本当に素敵な作品でした。

若者には若者のとらえ方があるでしょうし、年配者には年配者なりの感慨があるでしょう。男性には男性ならではの感動があり、女性は女性なりの勇気をもらうと思います。

サントラも素敵だった。もっかい劇場で見たいなあ。

みんな、べったべっただんだん。

▶『駆込み女と駆出し男』5月16日(土) 全国ロードショー

胸が熱くなる予告編