映画

映画『茶の味』は、松本人志の隠れた最高傑作。

最初に申しあげておきますが、この映画に松本人志さんは一切関与していません。

それなのに松本人志の隠れた傑作とうたったのは、いつの間にか引きこまれていく本作のシュールな笑いが、まさに松ちゃんが作りあげてきた世界観であるからです。

パクリとかいうのではなしに、松本人志という偉大な芸人がつくった「お笑い」のテイストを、見事に映画に昇華させた作品なのです。

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松ちゃんはこういう映画を撮ればよかったんじゃないの?

松ちゃんも映画撮ってますけど、評判はイマイチですよね。僕は好きだけど、そんなにヒットもしてないんじゃないかな。『大日本人』なんてぶっ飛んでておもしろかったですけど。

松ちゃんと世界の北野武の大きな違いは、「お笑いで培った価値観や引き出しを活かしていい映画を撮ろうとしている」たけしに対して、松ちゃんは「映画という枠でお笑いをやろうとしている」ということです。

松ちゃんがいくら天才でも、100%純粋なお笑い映画って難しいんです。三谷幸喜のように話の筋で笑わせるか、オースティンパワーズやジム・キャリーのようにキャラクターで笑わせるしかない。シュールで不条理な笑いを得意とする松ちゃんに、映画の尺と視聴スタンスは合っていないんです。

本作の石井克人監督は、松本人志ワールドの世界観を巧みに取り入れながらも、きちんと物語に軸をおいた「映画」として仕上げています。ちなみに石井監督はたけしの『ソナチネ』に影響を受けているそうです。

お笑いのプロが映画を撮ったのではなく、映画のプロがお笑いをやった作品なのです。

冗長な展開がしっとりと心に沁みる

とは言え、全編にわたってお笑いばかりというわけでもありません。むしろそういうシーンは、単調になりがちなストーリーに軽妙さと明るさを与えるスパイスのようなものとして使われています。

上映時間は143分。長いです。一見無駄に思える心象風景的なシーンが多いですし、全体的に長ったらしく感じられるかもしれません。

けれど逆にその冗長でゆったりとした時の流れが、本作の独特な世界観の礎になっているような気がします。

短い尺にあらゆる要素をぎゅうぎゅうに詰めこむ最近のハリウッド映画が好きな人は、もしかしたら途中で見るのをやめてしまうかもしれませんが。

たっぷりの時間の中でしっとりと描かれるから、目を疑うようなエキセントリックなシーンが行き場を失わず、登場人物たちの心の動きも丁寧に描かれています。あくせくしてないから、気づいたら本当にこの舞台の田舎町に自分が住んでいるような気にすらなります。

豪華キャストがチョイ役でバンバン出てる

ポスターを見たときは、浅野忠信を主演に据えた日本映画によくある単館系ののほほん映画だと思っていました。他に目立った主役どころはいないだろうな、と。

ところが、主人公の少年少女は新人なのですが、物語が進むにつれて、有名どころや実力派の役者がチョイ役でバンバン出てきます。

相武紗季が転校してしまうクラスメイトで一瞬だけ映ったり、代わりに若くて可愛い土屋アンナが転校してきて、尾野真千子が学校の校庭で一度だけしゃべったり、松山ケンイチがお好み焼き屋さんにいたり、庵野秀明は出てくるわ、草薙剛は叱られてるわ、加瀬亮なんてエンドロール見るまで出てるの気づきませんでしたが。

三浦友和手塚理美の夫婦が本当にいい感じ。三浦友和のややてきとうな存在感ってけっこう貴重だと思いません?

とにかく豪華キャストが超チョイ役で出ていて、それなのに作品がとっちらかってないのはさすがです。

物語的にも、ダウンタウン世代にドンピシャな映画

で、ストーリーに一切触れませんでしたが、栃木県の田舎の家族の物語です。

家族それぞれがマイペースに、それなりに幸せに暮らしている、と思いきや、けっこう深いところで悩んでいたりする。

一見ふつう、じつはエキセントリックな家族。つまり風変わりな人々なんだけど、でもやっぱりふつう。

そう思わせるのは、ドキュメンタリーじゃないかっていうくらいリアルな台詞まわしとロングカットのおかげかもしれません。実際、浅野忠信を筆頭に、アドリブでざっくりやっちゃったんじゃないの?というようなシーンがたくさんあります。

大人の達者な役者ならわかりますが、高校生がダベってるシーンとかのリアルさはスゴイです。僕らもそういやこんな馬鹿なことばっかり言ってたなあ、と思い出すほど。

ちなみにネットでいくつかレビューを読んだら、評価は半々くらい。

ぶっちゃけダウンタウンの全盛期の笑いがわからない人は、けっこう引いてしまうかもしれませんね。

今流行ってるお笑いのテイストとは明らかに違うし(そのテイストもダウンタウンがつくったものがほとんどですが)、少年期へのノスタルジーや家族それぞれの葛藤なんかがメインなので、僕くらいの中年世代にピッタリなのかもしれません。

今ならhuluで観られますので、よかったら暇な週末にでも楽しんでください。

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