誰が君を犠牲にするもんか__世界はトレードオフではない

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サン・テグジュペリは「星の王子さま」の中でこう言っている。

「愛とはお互い見つめあうことではなく、共に同じ方向を見つめることである」

ひとつの幸せや価値観に向かって歩むことこそが本当に愛しあう二人の姿なのであって、互いに見つめ合って甘い言葉を囁きあっているような二人はそんなもんまだムラムラしているだけのゲスの極みなのだ。

昔からある「わたしと仕事のどっちが大事なの!?」という禅問答もはなはだ狂っている。

言うまでもなく仕事もお前もどちらも大事だしどちらも犠牲になんかしないぜハニー、というのが正解なのに、どちらか一方を選ばなければいけないと信じている。

その根底にあるのは、世界はトレードオフで成り立っているという誤解だ。

何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければならない、というアレ。

勉強や成長に使う時間を増やすためには、テレビやお酒などの娯楽の時間を減らさなければならない、という。果たして本当にそうだろうか。

僕はかつて長いあいだそうやって楽しいことをやる時間を犠牲にして、成長のための時間を増やしていたが、結果的に心と身体がパンクして鬱になって会社へ行けなくなってしまった。

なぜなら常に「今は苦しいけどこれも幸せになるためだから」と自分を騙していたからである。僕はこれを意識高いセルフ詐欺と呼んでいる。

「時間は有限だから何かを始めようと思ったら何かをやめなければいけないはずだ」とあなたは言うかもしれないが、それだって時間は足りないという根底に立っているからであって、じつは時間だってどうにだってなる。

1日24時間で足りないのなら2日48時間で考えればいいのだし、1週間単位でスケジュールを組めばあらゆることが可能になるだろう。

などというインスタントなライフハックは置いといて、先日ある夫婦の間で起きた素敵なエピソードを紹介しよう。

旦那さんは仕事をしながらも今以上に充実した人生を送りたいと意欲的に勉強をしていて、週末にはセミナーなどに出かけるため家を空けることが多い。

奥さんは大家族の子どもたちや祖父母の世話をしたりとてんやわんやなのだが、愛する旦那さんには好きにやってほしいと応援している。せわしないながらも心が通った理想の夫婦である。

けれど現実的には時間がすれ違い、会話も減り、お互い心にも身体にも疲労が溜まり、気づいたら疎外感や孤独感が生まれてしまう。そこで奥さんは旦那さんに話をした。

「あなたが夢を叶えるためだから、私は寂しくてもガマンしているの」

旦那さんは言った。

「オレが夢を叶えることと、自分が大切にされることは両立しないと思ってるでしょ?」

奥さんはハッとした。たしかに、いつも私は「自分がガマンする=大切な家族が幸せになる」という公式で生きてきたんだ。幼いあの頃に傷ついてから今日までずっと。

「オレはすぐにまわりが見えなくなるけど大丈夫、ガマンなんかしなくていい。ちゃんと、こっちを見てって言ってくれればいい」

これが、共に同じ方向を見つめて歩みながら育んでいく本物の愛のかたちである。

世界は決してトレードオフではない。

ガマンするからいつか夢が叶うのではない。今幸せになるからいつか夢が叶うのだ。