映画

人生はままならないラブソングよ。いつまでも映画で女を抱きつづけるウディ・アレンの『カフェ・ソサエティ』

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いやあ、最高のラストだったなあ。

人生は喜劇だ___残酷な筋書きもあるけれど。ウディ・アレンの映画を見ると、人生を大局的に眺められるんだよいつも。

それにしてもウディ・アレンほどしあわせなじいさんはいないだろう。大好きなニューヨークやヨーロッパを舞台にして、旬の美しい女優をかったぱしから引っかけて、大好きなジャズをBGMに、惚れた腫れたを描きながら、人生は喜劇であるという映画を四十年以上 ”毎年” こしらえて、それが世界中で愛されつづける。自分が好きなものだけをぶちこんで___なんてしあわせな人生だろうか。彼は映画を撮りながら、美しい女優をとっかえひっかえ、ずっと恋愛をしてるんだろうな。83歳にしてこのバイタリティ。超クールなエロじじいですよ。



スカーレット・ヨハンソンを引っかけて艶めかしい恋愛ミステリーを仕立てた『マッチ・ポイント』からヨーロッパを舞台にしはじめて、『ミッドナイト・イン・パリ』でひさびさの世界的ヒットを飛ばしてから、八十代にしてふたたび全盛期を迎えつつあるアレンじいさんが今回の舞台に選んだのは、華やかなりし1930年代のハリウッド、そしてやっぱりニューヨーク。

主人公ボビーを演じたジェシー・アイゼンバーグがもう、若かりし頃のアレンそのまんまじゃないの。落ちつきのない、イケメンじゃないけど、ひどくロマンティックで、好きなものはとことん好きなニューヨーク育ちのユダヤ系。これからしばらくアレン作品はジェシーを主演に撮ってほしいなあ。

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僕はウディ・アレンの映画を全部見ているわけじゃないんだけど(何しろ多作なので)、アレンの古い作品とか見てると、コンプレックスに慌てふためきながらも、とことん映画や音楽や芸術やニューヨークや女の子が好きで、そのためだけに生きている、っていう、傍目から見るとちょっと失笑しちゃう、コミカルでイケてない青年に好感を抱くんだけど、僕にとってはこの “コンプレックスに慌てふためきながらも” っていうのが、アレンの最大の魅力なんですね。

他にいくらでもクールな映画俳優や監督はいるし、俺はチビでイケてなくて落ちつきのないユダヤ人コメディアン上がりの映画人だけれど、アカデミー賞授賞式をばっくれてジャズクラブでクラリネット吹いてたり、いつもそのときの最高の女優たちに愛され、なんだかんだ多くの俳優たちがその作品に出演したいと願っているっていう、俺のほうが、じつはイケてないかい? っていう、ひねくれているけど強烈な自負、矜持が隠れている気がする。アレンじいさんはもう夜のほうはたくましくないかもしれないけど、映画を通してずっと女を抱いてるんじゃないか、なんて思っちゃう。

この前ひさしぶりに秋葉原をぶらついたんだけど、ジャンク街とか歩いてたら、意外と年齢層が高いんですよね。けっこう渋めのロマンスグレーたちが、狭いジャンクショップで、ガラクタみたいなPCパーツを真剣な瞳で選んでる。またそれがひどくしあわせそうな光景でね。ああ、この人たちは、自分が好きなものを、まっすぐに好きでいるんだなあ。そういうのを重ねて、人生を紡いでいるんだなあって思ったら、なんだかこっちもしあわせな気持ちになって、僕はいつもウディ・アレンからもそういう感慨をもらうんです。

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野暮は承知ですこしストーリーをなでると、甘っとろい夢を胸に出向いたハリウッドで熱烈な恋に落ちたボビーは、その恋人ヴェロニカとあれこれあったあげくに結局フラれてしまうんだけど、ニューヨークに戻ったら才覚を発揮して仕事でも成功して、彼女と同じくらい美しくて素敵な女性ヴェロニカと恋に落ち、結婚して、子どもをもうける。しばらくしてハリウッドのヴェロニカと再会し、奥さんのヴェロニカを愛しつつも、かつて熱烈に愛したヴェロニカとの甘い時間とこれから選べるかもしれない将来に夢を見てしまう。

さあ、こっからどうなるの……ってときに、お互い別の場所で、なんとも言えない表情で、物語は幕を閉じる。もう、ね、うん、最高のラストだったなあ。理屈じゃねえよ。理屈じゃない。

人生ってそんなもんですよ。

村上春樹が、ある程度の年齢を越えたら、人生は「そういうものだ」と「それがどうした」の二つの言葉でやりすごせる、って言ってたけど、そこに付け加えて、「そんなこともあるさ」「何があるかわからないよ」「それが人生さ」っていう、まさに人生は、何が起ころうと喜劇だし、哀しみや寂しみさえ、人生を深く甘く切なくしてくれる大切なエッセンスなんだって、そう思わせてくれる、至極の終わり方でした。

奇しくも設定やら何やらが『ラ・ラ・ランド』とニュアンスが似てるんだけど、そこを比較することこそ野暮なのでやめておくね。制作時期は同じだからどちらかが寄せたってことはないらしいですよ。

ウディ・アレンを楽しむには、欧米文化に対するそれなりの素養とか興味とか余裕はたしかに必要かもしれない。だから大人に愛されるんだけど、無理に楽しもうとする必要もないんだよ。自分が好きなものをまっすぐ愛しつづければいいし、アレンなんて変態オヤジを知らなくたって、人生の彩りは他にいくらでもある。でも、もし映画というものが「こんなに素敵な人生もあるんだよ」っていう選択肢を与えることで、僕らの生き方を豊かにしてくれると信じられるのならば、いくつかアレン作品を見たら、感じるところがあるんじゃないかな。

そうそう、ボビーがある年上の女性に「好きな人がいるんだけど、片思いなんだ」って打ち明けると、彼女が「人生はラブソングみたいなものよ」って言うんです。世界中にあるすべてのラブソングは、片思いか失恋__人生は思い通りにはいかないって唄。

仏教で言う「一切皆苦」ってオカタい言葉も、アレンじいさんに言わせればラブソング。オサレすぎて屁が出るけど、キザにならないように、いつもドタバタなコメディにならざるを得ないんですね。ちなみに僕の優秀演技賞はスティーブ・カレルでしたね。いつもながらおおまじめに笑わせてもらいましたよ。

Apple Musicにサントラあるよ。

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