書籍/小説

2018 思わずうなっちゃった本5選

今年は一年通してずーっと本ばっかり読んでたようなもんなので、膨大な量からうまくまとめられないんだけど、今日現在記憶に残ってる「思わず唸っちゃった本」を紹介しますね。

空白の五マイル/角幡唯介

最近読みはじめて、今一番熱中しているのがこの一冊。角幡唯介という探検家が、チベットにあるツアンポー峡谷という人跡未踏の秘境に挑んだ探検を著したノンフィクションで、『開高健ノンフィクション賞』を受賞。まあとにかく嫉妬するほどに文章がうまい。

誰でもパソコンやスマホでグーグル・アースを使って世界中の至る場所を見ることができてしまうこの時代に、ほとんど唯一といっていいくらいに数少ない〈まだ誰も足を踏みいれたことのない場所〉を踏破するという、探検家としての希有な才能に恵まれながら、それを実際に体験しているような、ひりつくリアルな肌感覚を味あわせる文章。天が二物を与えた人である。部屋に引きこもって書物や映画など、人の創りしものにばかり囲まれて暮らしている僕などは、彼と世界の探検家の人生の一部を味わったような気になってこの上なく興奮するのである。

考えない練習/小池 龍之介

東京大学で西洋哲学を学んだ若き浄土真宗の住職によって、現代人にはびこる〈思考という病〉について書かれた本である。僕はなんとなく思い出しては読み返し、その度に、自分がふだんどれだけ無駄な思考に振りまわされ、より強い刺激を求めて暴走しているかを思い知らされてハッとしている。

年を重ねると時間の流れが早く感じられるのは、子どもの頃は目の前の現実を五感でじっくりたっぷり体感していたのに、大人になると頭の中で過去のデータや知識、未来の予測や気がかりなど、思考に支配されているからであるという。さらにその頭の中の〈思考〉が〈現実〉を凌駕すると、つまり〈現実〉より〈思い込み〉をリアルだと信じてしまうと人は痴呆症になるのではないか、という話には唸らされた。あなたは美しい冬空や大切な人の笑顔を見つめるとき、本当にそれらを見ているだろうか。余計なことを考えてマトリックスを生きてはいないだろうか。

思考という、現実そのものに直結しない妄想に耽った報いとして、実感がスカスカになれば、どれだけ物質的に豊かでもいつまでたっても幸福感は損なわれたままだ。

祐介/尾崎 世界観

クリープハイプの尾崎世界観による半自伝的小説。

若さ故の自意識をもてあまし、何者でもない自分に悶々としながらも、青春の閉塞感の中にそれでも輝く〈希望〉がやたらと眩しい。生々しい描写が抜群で、息苦しさの底に光をあてる文芸が見事だ。〈汚物の中に美を見いだす〉視点は、さすがずっと詩を書いてきたミュージシャンといったところか。正しく眩しい良識の闇をあぶり出し、僕らが抱える醜さに光をあてるのが芸術の役目であるなあと再確認した。

なにわ友あれ/南 勝久

平成初期の大阪環状族のチーム同士の抗争や走りにかける情熱を生々しく描いた人気マンガ。ケンカに明け暮れるいわゆるヤンキーマンガであるが、作者の自伝的要素が濃厚でとにかく引きこまれる。

彼らは若く馬鹿だけど、強いとか弱いとか、正しいとか間違ってるとか、カッコいいとかダサいとか、安直な線引きをしない包容力があり、〈戦争をしたい年頃の若者〉たちの爆発がときに爽快でときに切なく胸に迫ってくる。

とはいっても、基本的には大阪の物語らしくつねにボケてボケて笑いにする雰囲気が単純に楽しい。彼らに線引きがあるとしたら、笑えることと笑えないこと、かもしれない。ケンカ三昧のろくでなしたちばかりだが、笑えないことをする奴らは許さない。

この作者は今連載中の『ザ・ファブル』もそうだけど、物語の展開がとてもうまい。エンタメ性と作家性のバランスがいいんだよなあ。ファブル映画版はV6岡田くん主演で2019年6月公開予定だってよ。

教団X/中村 文則

 中村文則は優秀な教師だと思う。難解で専門的な知識や教養を、サービス精神たっぷりのエンターテインメント小説の中でやさしく解説してくれる。

巻末の膨大な参考文献を覗けばわかるが、宗教に脳科学、量子力学から宇宙論、さらには戦争、靖国問題にテロや飢餓など、扱われる範囲は多岐にわたり、これを一冊読んだだけでこの世界の全体を見渡したような錯覚に陥る。

僕の場合、『サピエンス全史』という人類の歴史と『タオを生きる』というスピリチュアルを併読したことによって理解が深まり、さらに世界を眺める視点がぐんと上がったような気がする。

また私的な話になるが、このハードカバーは死んだ親父の書棚から拝借したもので、彼が引いたアンダーラインやページに挟まれた雑誌の切り抜きなどが、僕の知らない親父に会わせてくれたようで、感慨深いものがあった。

おまけ

梅佳代の写真集が好きだ。なんでもない街角のスナップに、くすりと笑ってしまうユーモアとすこしの毒。誰かが派手にコケているところを見たら、心配するより笑ってあげる。そんな肯定とやさしさが彼女の写真には宿っている。おかしみと哀しみを切り取る天才です。

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