前回☞ 京のお上りさん。木屋町の宿。物の怪の夕暮れ。〈京へ西へ。その二〉

2019年11月25日。七時起床。

しっかり眠れたんだけど、ちょっと酒が残ってて、最近は家でも八時九時まで寝てるから、まだまだ眠かったんだけども、朝食に合わせて起きたよ。

以前は一見さんお断りだったっていう、小さいんだけど歴史ある老舗の宿だから、トイレとか洗面台とか共用で、部屋の戸はふすまで鍵もないしね、朝歯を磨くのにもちょっと気をつかったりしたけどもね。

ここは、オレが泊まった鴨川を向いた二間の大部屋と、町側の小さな部屋の二つしかなくて、その日の客はオレだけだったの。

だから、カウンターで、女将さんが、オレだけに世話焼いてくれんのよ。で、奥の厨房では、ご主人がだし巻き卵を巻いてたりしてね。そりゃ贅沢っすよ、朝から。

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っていうかね、もうね、大げさじゃなくて、オレ、今までの人生で一番うまい朝食だったね。

ブログとかであんまデカいこと書くと信憑性が消え失せるけども、それでも言うね。日本で一番、世界で一番うまい朝飯だって思ったもんね。

今でも思い出すとうっとりするよ。

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まずこう、誰もいないカウンターでね、その奥には朝の鴨川の流れが見えるわけですよ。

そこで、土鍋に湯豆腐がコトコト煮えている。

そこへ、ほっこりとした笑顔の女将さんがやってきて、京都弁でね、お水をすっと置いてね、熱いおしぼりがあって、お茶が出て、色とりどりの小鉢が並べられていくのよ。

湯葉だとか、白和えだとか、ハモとキュウリのお酢のものだとか、カボチャを煮たのに生麩が添えられてたりしてね、いわゆる京都のおばんざいってのなんだけど、これがひとつひとつ丁寧で、いちいちおいしいのよ。おっ、てな声が出るくらい。

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なんていうか、この料理を、京都の高級料亭だとか高級ホテルなんかで食べることもできるんだろうけども、それはやっぱり、厨房で、不特定多数のお客さんに向けて作ったものでさ、仕事って感じがするじゃないすか。

でもね、そこで食べたそれはね、ご主人と女将さんが、オレのためだけにこしらえてくれて、もてなしてくれてるっいうね、うまく言えないけども、ぜんぜん違うわけですわ。

温度とか、盛り付けとか、諸々、一人に出すのと、大勢に出すものでは、そりゃ違う。

もちろん旅情とでも言うべき心の高揚もあっただろうけども、それを差し引いてもね、胃に、心に沁みましたよ。

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さらに、ふわっふわでお出汁がじゅわわわとこぼれる焼きたてのだし巻き卵に、甘くてとろとろの西京味噌の白い味噌汁、小さな丸餅が浮いててね、ああこれやわあとね。

ほら、京都の白い味噌汁、丸餅のお雑煮とかって、小説やエッセイで出てきて、いつも思い浮かべていたわけですよ、どんなんなんかなあ、うまそうだなあって。

それが、初めてで、ここでよかったなあと。

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で、もちろん湯豆腐ですよ。

薬味のおろし生姜をちょんとのせてね、これがまたやさしい辛みでさ、熱々のをほろっと口に入れてほがほがやってると、絶妙な甘さが広がって、またもやうわあ、感嘆の声が漏れる。

やさしくてコクがあってね、オレの知ってる湯豆腐じゃないわコレって、甘みがなんていいんだろうって、なんだろう、お豆腐なのか、お出汁なのか、いろいろ女将さんに訊いちゃってさ。

お出汁の昆布の旨みをぎゅっと吸ったお豆腐自体の甘みもあるけども、つけ汁がね、京風は甘いんですね。

ああ、そっちか……と苦笑したけども、汁だけ舐めてみると、たしかにこう、鰹のお出汁がきいていながらほどよく甘くってね、ああこれやわあと。

湯豆腐ってそんなに好きじゃなかったけど、これならまた食いたいって、使ってるお豆腐屋さんなんかもちゃっかり訊いちゃったりして、女将さんもそういうとこもったいぶらずに教えてくれてね。

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さらにさらに、京野菜のお漬物。

見た目からしてフレンチのオードブルみたいに美しい盛り付けで、でもおかずたくさんあるのにこんなに食べられないよって思うんだけども、食べちゃうんですねコレが。

味の加減、塩梅がね、ちょうどええんどすわ。まあやさしい。そんで歯ごたえ。

ごはん三杯目おかわりして漬物だけで食べたいくらいだったけどね。

ほんでほんで、満足の吐息を漏らしているところへ、さっぱりとしたグレープフルーツが一口出てきて、〆には玉露ですわ。

エスプレッソのごとく、小さな茶碗にね、適温の玉露がね、玉露ってしょっぱいのよね。

前にもどっかで吞んだけども、昆布に含まれるグルタミン酸と同じアミノ酸、つまり旨み成分がふんだんでね、お茶のさっぱりとした味わいがありながら、ぐっとコクがあってね。

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まあ、最後までやられましたわ。

ちょっとね、昨夜のお酒が残ってたってのも、いい相乗効果だったような気もするんだよね。わからんけど。

ふだん朝食べないんだけどね、ひとつひとつ、白飯までね、沁みたよね、うまかった。

で、部屋に戻って、まあるくなった腹をさすりながら、畳の上でしばらく寝っ転がってね。座布団丸めて枕にして、のび太の昼寝モードで。

そりゃもう、最高だよ。死んでまうわと。

☞ 京都びんびん物語〈京へ西へ。その四〉

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