一人で水道橋のホテルに泊まった夜。
あまり腹は減ってなかったんだけど、今宵の止まり木を探して、ぷらぷらと神保町の街を歩く。
通りに並ぶ数々の飲食店。こだわっちゃいないんだけど、選択肢が多すぎると、なんだか逆に選べなくて、いつまでもぷらぷらぷらぷら。
いい加減疲れてきたところで、ある店を見てビビッと直感が鳴った。
初訪問の個人経営店、それも昭和の香りのぷんぷんする店は、ちょびっと緊張するのだけれど、暖簾をくぐって聞こえてきた、女将さんの明るい声に心身がゆるむ。
まずは瓶ビール。
四種の惣菜がチョコッとまとめられた小皿のつきだし。見た目は洗練されていないけど、口に運ぶと思わず顔がほころぶ。うめえ。
地味だけど、うまい、ぞ。
やった。アタリ、だ。たぶんココ、何を頼んでも、それなりにうまい店だ。
酢の物盛り合わせ。タコにコハダ、白身の魚にキュウリとワカメ。すっと、さっぱりして、縮んでいた胃袋が動き出してくる。ほら、やっぱり、うまい。
焼き鳥は、モモとレバー。それから、ポテトフライ。
小洒落たメニューもあるけれど、一人の宵はこんな気分。
新潟の地酒が豊富な店らしいが、そんなに飲む気分でもないので、ハイボールで締め。
昭和の香り、この街に馴染んでて、サラリーマン客もどんどんやってくる。
知る人ぞ知る名店かもしれない。一人カウンターの手持ち無沙汰にググってみると、吉田類さんが来てるじゃないの。そりゃ、うまい。
締めに頼んだ塩出汁の肉豆腐が絶品。ちょいと疲れた胃袋に染み渡る。どれも、いい仕事してんなあと。
ぶっきらぼうだが女将さんと絶妙な呼吸を見せる大将に、おいしかったですと告げ、夜の街に出る。
ふう。にこにこしながら、宿への道をゆく。都会に一人の夜はすこし寂しいけれど、一人だから楽しめる夜もあるんだな。