僕は親父と話すときには敬語を使う。
幼い頃にそうしろと言われて以来、おっさんになった今でも、はい、ご無沙汰してます、なんて他人行儀に話してる。
親父のことは尊敬しているけど、僕は自分の息子とは友だちみたいな関係を築きたいと思っていた。
中学生の息子は育ち盛りで、なにより肉が好きだ。最近は声変わりもして、家内には生意気な口をきくこともあるらしい。
彼だっていろんな傷やストレスを抱えているのだ。
僕はそう自分に言い聞かせて、ステーキを焼いてやる。
男の子は味より量だから、オージーかアメリカの安いビーフをたくさん買ってきて、さっとレアに焼いて、バター醤油のソースで仕上げる。
アメリカ映画に出てくるような、なんでも相談できるやさしいパパになりたかった。けれど僕もけっきょく親父と同じだ。僕は親父の背中しか知らない。
くたびれた彼にねぎらう言葉をかけてあげることができなくて、ときには声を荒げて叱責してしまう。
本当は抱きしめてやりたいと思っても、彼の気持ちより家庭の事情を優先して、無理やり言うことをきかせることだってたくさんある。
幼い妹たちのために、やりたいことを我慢させてしまう瞬間なんてもっとたくさんある。
僕はごめんなって言う代わりに、ステーキを焼いてやる。
いくらでも食べられるように多めに肉を用意して、こってりとしたバター醤油ソースをかける。
息子はだまって肉を食う。ろくに噛みもせずにがつがつ飲みこむので、最近は丼にして出してやる。彼はだまってお代わりをする。僕は心の裡で、好きなだけ食えよと思う。
そういえば親父も、僕を叱った後には、よくピザを食べに連れていってくれた。親父も心の中で、ごめんなって言ってたんだろうか。
バター醤油ステーキ丼のレシピ
- 牛ステーキ肉を常温に戻しておく
- 塩胡椒・ガーリックシーズニングで下味を付ける
- フライパンに油を敷いて片面に強火でしっかり焼き目を付ける
- 裏返して中火で軽く焼いたら、取り出して休ませておく
- 肉を焼いたフライパンに料理酒を入れてアルコールを飛ばし、たっぷりのバターを焦がさないように溶かし、火を止めて鍋肌から醤油をまわしてソースを仕上げる。
- 丼に白飯と肉を盛り付け、ソースをかけたら、万能ネギと白髪ネギでトッピングする。