ベーコンとキャベツのコンソメスープ、しその葉の秘密をそえて。

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二日酔いの朝には汁物がほしくなる。

しじみの味噌汁なんてのが肝臓にはよさそうだけど、僕はいつも「ベーコンとキャベツのコンソメスープ」をつくって飲む。

こいつは簡単なくせに本当にうまいスープなんだが、何かが足りない。何度やっても、あいつと同じ味にはならないのだ。

 

二十代のはじめ、酒に溺れていた時期があった。

つらいことがあったわけじゃない。自分が何をしたいのかわからなくて、先が見えない不安を酒で散らしていた。どこにでもある若者の話だ。

「かんたんなようで、むずかしいのよ」

彼女は休日の朝にスープを作りながら言った。

今なら彼女の言葉がよくわかる。

ベーコンとキャベツをコンソメの素で煮るだけのこのスープが、どうしてもうまくできないのだ。人生も、あの頃想像していたものとは大きく違っている。何もかも、かんたんなようで、むずかしい。

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あいつの言葉を思い出しながら、ベーコンを火にかける。ここでしっかり火を通すか通さないかで、スープの味はほとんど決まってしまうという。

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ベーコンがカリカリになったら、水と千切りのキャベツ、コンソメスープの素を入れて煮る。ただそれだけの料理だ。

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あいつは特別料理がうまいわけじゃなかったけど、このスープだけは得意だった。

僕が二日酔いでぶっ倒れている土曜日の朝。あいつはドリカムの歌を口ずさみながらテーブルまでスープを運ぶと、ペッパーミルで胡椒を挽いた。喉から酸っぱいものがわいてくるようなときでも、この胡椒の香りを嗅ぐと腹が鳴ったものだ。

彼女が最後に作ったスープを僕は飲まなかった。

他に好きな男ができた、と言われたからだ。彼女はそんなことを告げる朝にもスープを作って、ペッパーミルで胡椒を挽いて、そのまま部屋を出ていった。

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そんな彼女の後ろ姿を思い浮かべていたら、僕は唐突に思い出した。

あのスープの決め手は、ペッパーミルで挽く胡椒だけじゃなかった。最後にしその葉をそえていたのだ。

しっかりと炒めてベーコンの旨味が凝縮したスープに、千切りキャベツの歯ごたえと挽きたてのペッパーの香り、そしてしその葉の清涼感が加わることで、このスープは完成するのだ。

「かんたんなようで、むずかしい」と彼女は言ったけど、秘密さえわかってしまえばむずかしくなんかない。人生だって、きっとそうにちがいない。

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