コラム/エッセイ

ベーコンとキャベツのコンソメスープ、しその葉の秘密をそえて。

IMG 4093

二日酔いの朝には汁物がほしくなる。

しじみの味噌汁なんてのが肝臓にはよさそうだけど、僕はいつも「ベーコンとキャベツのコンソメスープ」をつくって飲む。

こいつは簡単なくせに本当にうまいスープなんだが、何かが足りない。何度やっても、あいつと同じ味にはならないのだ。

 

二十代のはじめ、酒に溺れていた時期があった。

つらいことがあったわけじゃない。自分が何をしたいのかわからなくて、先が見えない不安を酒で散らしていた。どこにでもある若者の話だ。

「かんたんなようで、むずかしいのよ」

彼女は休日の朝にスープを作りながら言った。

今なら彼女の言葉がよくわかる。

ベーコンとキャベツをコンソメの素で煮るだけのこのスープが、どうしてもうまくできないのだ。人生も、あの頃想像していたものとは大きく違っている。何もかも、かんたんなようで、むずかしい。

IMG 4048

あいつの言葉を思い出しながら、ベーコンを火にかける。ここでしっかり火を通すか通さないかで、スープの味はほとんど決まってしまうという。

IMG 4051

ベーコンがカリカリになったら、水と千切りのキャベツ、コンソメスープの素を入れて煮る。ただそれだけの料理だ。

IMG 4063

あいつは特別料理がうまいわけじゃなかったけど、このスープだけは得意だった。

僕が二日酔いでぶっ倒れている土曜日の朝。あいつはドリカムの歌を口ずさみながらテーブルまでスープを運ぶと、ペッパーミルで胡椒を挽いた。喉から酸っぱいものがわいてくるようなときでも、この胡椒の香りを嗅ぐと腹が鳴ったものだ。

彼女が最後に作ったスープを僕は飲まなかった。

他に好きな男ができた、と言われたからだ。彼女はそんなことを告げる朝にもスープを作って、ペッパーミルで胡椒を挽いて、そのまま部屋を出ていった。

IMG 4096

そんな彼女の後ろ姿を思い浮かべていたら、僕は唐突に思い出した。

あのスープの決め手は、ペッパーミルで挽く胡椒だけじゃなかった。最後にしその葉をそえていたのだ。

しっかりと炒めてベーコンの旨味が凝縮したスープに、千切りキャベツの歯ごたえと挽きたてのペッパーの香り、そしてしその葉の清涼感が加わることで、このスープは完成するのだ。

「かんたんなようで、むずかしい」と彼女は言ったけど、秘密さえわかってしまえばむずかしくなんかない。人生だって、きっとそうにちがいない。

関連記事

  1. こころハック

    好きなことばかりやってたら、映画俳優に会えました。

    最近、好きなことばっかりやってます。「それはりゅうさん…

  2. コラム/エッセイ

    ぼくがいちばん好きな映画「駆込み女と駆出し男」をあらためてとことん語ってみるよ。

    いちばん好きな映画は何ですか?って訊かれていつも悩むのは、好きな作品が…

  3. コラム/エッセイ

    僕らは中国の皇帝のように食べすぎている。

    最近こころと体の調子がわるいな、と感じるときは、だ…

  4. コラム/エッセイ

    今年は前情報見ないでガンガン映画見にいこうっと。

    映画大豊作だった昨年(2015年)のオレ的ベスト10の記事を書いてて思…

  5. コラム/エッセイ

    本代が気になるあなたに、図書館という智恵の宝庫を教えてあげたい。

    本代が馬鹿にならない。ネットを眺めていると、毎日のよう…

最近の記事

〈note〉エッセイやコラムはこちら


月別の過去記事

  1. コストコ/イケア

    IKEAは店内でネットを見ながら買い物がいいね!Wi-Fi接続方法も。
  2. 好きなことだけして生きていく

    所ジョージさんの「遊戯三昧」で仕事を遊んで遊びを仕事にしようぜい!
  3. ライフハック

    あっちの世界でお義父ちゃんに会ってきた!お墓参りはトランス状態
  4. コラム/エッセイ

    やっと悔しがれたギリシャ戦。ようやく素直に唇を噛めた。
  5. 好きなことだけして生きていく

    スタートポイントは、今すぐやりたいことやるだよ。
PAGE TOP