Riparbella, Tuscany
Riparbella, Tuscany / Niklas Hellerstedt
「今日は圭佑が決めてくれるよ」

ワールドカップアジア最終予選・オーストラリア戦当日。夕暮れどきの空からふっと声が降りてきた。

その晩、本田圭佑は敗戦濃厚だった後半アディショナルタイムに、自ら獲得したPKをど真ん中に蹴りこんでワールドカップ出場を決めた。僕は息子と手を叩きあって喜びを爆発させたが、天からの声が的中したことには驚かなかった。

嘘のような話だけれど、僕には見えていた。圭佑は、決めるべくして決めたのだ。

後半44分。本田のクロスが相手DFの腕に当たってPKを取ると、本田は一瞬の躊躇もなくボールを抱えて「俺が蹴る」という意思表示を見せた。

入れば同点でワールドカップ出場はほぼ決定だが、外せば戦犯は確実。そんな強大なプレッシャーがかかるあの場面で、自らキッカーに名乗り出て、迷うことなくど真ん中に叩きこむことができたのは、本田にはっきりとしたイメージがあったからだ。

「この試合で、俺が、ワールドカップ出場を決める。」

 

「決めたい」という願望や「決めるぞ」という決意ではなく、「決める」という、当然の結果としてのイメージを、いささかの疑いもなく持つことができるから、本田は迷うことなく自分でボールを蹴りにいく。自分がイメージしたとおりにゴールチャンスがまわってきたのだから、イメージどおり蹴って、イメージどおり入れるだけ。

これはイメージの力とか、潜在意識とか呼ばれて、ずいぶん昔から多くの人たちに伝えられていることだけれど、彼ほどその「信じる力」を強く輝かせている人間はそうそう見あたらない。ただ他にも多くの著名人が潜在意識の力を活用しており、以下のまとめは非常に興味深い。

▶【叶ってる?】有名人の潜在意識エピソード – NAVER まとめ.

ザッケローニが言うように、今の日本代表の最大の武器は「本田圭佑の決定力」に他ならない。ビッグクラブに在籍する香川真司や長友佑都の他にもヨーロッパで活躍する選手がたくさんいるが、過去数試合の結果だけを見ても、本田がいる試合といない試合ではチームの印象や決定力はがらりと変わってしまう。

「ホンダはピッチにいるとき、常に違いを生む。そういう質の選手だから、彼はいるだけでチームに違いをつくる。」___オジェック(オーストラリア代表監督)

では本田圭佑が持っていて、香川真司が持っていないものとは何だろうか。

香川だってもちろん、自分を信じていないわけじゃない。潜在意識やイメージの力は認識しているだろうし、モチベーションを高くキープしなければ、いくら才能があったってマンチェスター・ユナイテッドという超ビッグクラブで試合に出続けることはできない。

「頭の中ではメッシやクリスティアーノ・ロナウドを超えるプレーをしている。」___本田圭佑

本田の「自信」は、現時点で香川のそれを遙かに上回るのだ。

本田の自信というと、ビッグマウスや生意気な態度が連想されてしまうけど、自信というのは「自分の優れたところを誇示すること」ではなく、「自分ならできる、と信じること」であり、彼は周囲に宣言することでその自信を揺るぎないものにしているにすぎない。

「俺の人生は挫折の連続なんです。」___本田圭佑

日本の二人のエースを比較すれば、神がギフトを授けたのは間違いなく香川真司のほうだろう。本田のサッカー人生は挫折の連続だった。小学校の頃からチームメイトの誰よりも足が遅く、ユースにも上がれず、Jリーグでもオランダでもなかなか結果が出せなかった本田は、その度に、ただひたすら自分を信じ、解決策を見いだし、練習して、壁を壊して突き進んできた。香川にだって挫折はあっただろうが、ヨーロッパに渡ったその年から三年連続でブンデスリーガとプレミアリーグ制覇を経験した香川のサッカー人生と、厳寒のモスクワに幽閉されたかのような本田のそれはまったくの別物だ。

教訓めいた童話のようで気が引けるが、夢を阻む壁を何度となく壊しながら成長してきた本田と、エリートコースを進んできた香川の「こころ」の力に差があるのは当然だ。

「圭佑くんはこういうところで違いを生み出す。予選を通じて存在が大きかった」___香川真司(試合後の会見で)

現時点での二人のサッカー能力をあえて数値に仮定したとして、香川が85だとしたら、本田は80くらいかもしれない。だけど大事な試合、ここぞという局面で、イメージの力を発揮する本田の数値は、100にもそれ以上にもなるのだ。

だからといってエリートタイプより雑草タイプの選手のほうが土壇場に強いとか、香川より本田が優れているなどと言うつもりはない。僕が言いたいのは、プロサッカー選手のような特別な存在でなくとも、人は誰だって、自分自身を信じて、一点の疑いもないイメージを持つことができれば、それを実現できるということだ。逆に言えば、イメージできないことは実現できないのであり、イメージできるところまで自分自身を磨いて成長させなければならないのは言うまでもない。

Soccer Ball
Soccer Ball / Julian Carvajal
ところで、僕が聞いた空からの声というのは、つまるところ僕の潜在意識による内なる声である。

最近の本田は、右膝が完治しないせいで所属チームでも活躍できず、代表の試合にも出られず、その間に香川はヨーロッパで活躍し、自分はなかなかビッグクラブに移籍できない。CSKAモスクワとの契約は今年の冬までなので、是が非でもワールドカップ予選やコンフェデ杯で活躍して、夏の移籍市場に向けてアピールしたい。しかも自分が出場していない代表戦では、ことごとくいい結果が出ていないとなれば復活をアピールする絶好のチャンスだ。

つまり昨今の本田や日本代表の来し方を鑑みると、圭佑がいつも以上に強い信念と覇気を持って試合に挑むであろうことは明白で、実力の均衡したオーストラリアとの試合では、やはり本田の決定力がものを言うだろう、と、僕の無意識が判断したという、それだけのことだ。

ちなみに僕は、エリートタイプ・雑草タイプ問わず、生き様にドラマのある選手が好きだ。今なら、香川以上の天才と称されながら、長いあいだ結果を出せずにいた柿谷曜一朗が、心を入れ替えてようやく、輝かしい舞台で花開こうとしている姿に、わくわくしているところだ。

いずれにせよ、今後も日本代表に期待していきたい。サッカーは最高だ。

「俺なんて全然、天才タイプじゃないし。それで才能がないから諦めろなんて言われたら、どんだけの人が一瞬で諦めなきゃあかんねん。」___本田圭佑