コラム/エッセイ

松木さんになるか、セルジオさんになるか?

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先日、サッカー日本代表のブラジルワールドカップ最終予選対オマーン戦を観ました。

香川がいなかったり本田が不調だったりしたものの、清武や長友、岡崎などが大車輪の働きを見せて、アウェイで貴重な勝ち点3を手にしたわけですが、すこし気になったのが解説のセルジオ越後さんの不在。

今やサッカー日本代表の一員と言っていいほどの存在感を見せる松木安太郎さんとの名コンビが聴けなかったのがちょっと残念でした。

ということで、松木安太郎とセルジオ越後両氏についてふと考えたこと。


黄金のトライアングル

松木安太郎さんと言えば、監督としてヴェルディの黄金時代を率いたことよりも、勢いと擬音と叫び声が特徴的な迷解説で有名ですが、その対局にいるのが、辛口評論で有名なセルジオ越後さん。

「いいよいいよ!」「ナイスカットー!」「今のオフサイドじゃないだろーよー!」などと、解説と言うよりは単なる応援を繰りかえす松木さんと、それを尻目に監督の采配や選手の好不調を冷静に批評するセルジオさんは、まさにサッカー解説の光と影。動と静。ポジとネガ。

そしてその冷静と情熱の間を取り繕うのが、ピッチ解説の名波さん。優秀な後輩がいると助かりますね。

現在の我が国において、この三人が創りだす黄金のトライアングル以上のサッカー観戦環境はないんじゃないでしょうか。

セルジオさん不在の影響

ところがオマーン戦では、なぜかセルジオさんがいませんでした。

松木さんの「居酒屋でいっしょにサッカー観てる隣のおっさん」感覚の解説のおかげで僕らの気持ちは盛り上がります。

だけど、おっさんは日本代表の悪いところや細かい客観的事実はあまり口にしないので、選手のコンディションやリアルなピッチ状況、試合の大局的な流れなど、現地にいる専門家による解説がほしくなるわけです。

はじめは気にしていなかったのですが、厳しい試合展開になってくるとセルジオさんの不在が響いてきます。

優秀かつ良識ある後輩の名波さんが時折ピッチサイドから客観的な実況報告と解説を挟んでくれるわけですが、名波さんもまだ立場的にセルジオさんほど辛口なことは言えないし、せっかく「松木さん、後半に入って全体的に日本代表は……」と話しているのに、酔っぱらったおっさんに発言を遮られてしまう始末。

本田圭佑や酒井宏樹の不調に対する苦言やザッケローニ監督の采配への疑問など、セルジオさんがいればもっと深い部分で試合を楽しめたような気がします。

それでも松木安太郎!

サッカー日本代表戦があると、Twitterやネットに「松木さんウルサイ!」「ちゃんと解説しろ」などという一見批判的な声が飛び交います。

たしかに目の肥えたサッカーファンにとっては、静かに観戦したいところに、いちいち同じようなことを叫ばれ続けていては鬱陶しいのかもしれませんが、なんだかんだ言ってみんな松木さん大好きなんですよね。

僕のまわりにも、するどい洞察で客観的な解説をしてくれるサッカーオタクが何人かいるのですが、インテリ臭漂う彼らもみんな、意外なことに松木さんファンなんですよね。

物知り顔で世界の真実を語るよりも、赤ら顔で好きな人を応援していたい。

まあつまるところ、松木さんだけでもセルジオさんだけでもダメだよってことなんですが、この二人の性格って、けっこう普遍的で、僕らの生きる姿勢を考えさせられるな、と思ったんです。

松木さんは一言で言えば、「悪いところには目をつぶって、良いところだけを見てテンション上げる人」で、セルジオさんは「良いところも見るけれど、まずは悪いところを探して物事の真実を掘り下げたい人」みたいな感じだと思うんです。

言うまでもなく二人とも見た目そのまんまでは決してないし、あくまで仕事での役割でもあるから、松木さんだって戦略的な議論を持っているだろうし、セルジオさんだって躍りあがって喜ぶ瞬間はあるはず。

だけど、基本的なデフォルトの「生きる姿勢」は、上に書いたような分類になるんじゃないかと思う。

僕はかつてセルジオさんタイプだった。

多くの若者がそうであるように、僕も思春期のある時期から、世界のあらゆる事象を斜めから見て、あらゆる物事に疑問を抱き、否定しようと試み、何事をも手放しでは認めないという姿勢にほのかな喜びを見いだして、過剰した自意識を充たしていた。

要はインテリ・コンプレックスかインテリかぶれのどちらか、あるいはその両方だったわけです。

だけどある程度歳を重ねて、家族を持ち、大切な人々を護るための仕事に追われ、自分の行く末の大局的な流れが見えてくるようになると、そういう「評論」的なものがどうでもよくなってくるんですね。少なくとも僕の場合。

物知り顔で世界の真実を語るよりも、赤ら顔で好きな人を応援していたい。

人が唸るような蘊蓄を並べるよりも、どうしようもないオヤジギャグを連発していたい。

そんな風になってきました、最近は。

松木さんになるか、セルジオさんになるか?

だからと言ってセルジオさんがダメだという話をしているわけではありませんよもちろん。

世の中はいろんな役割があって、前述したようにセルジオさんがいた方が僕らもサッカーをより深く愉しめるわけだし、そもそもこの文章において僕がこじつけた松木さんとの対比のための便宜上のキャラクタなわけですから、実際は熱いブラジル人の血によってサンバを踊っているかもしれないし。

でも人生においては、どうせなら、暗いこと、哀しいこと、失敗したことなんかには目をくれないで、松木さんみたいに大きな声で、大好きなことだけを話し、大好きな人たちを愛し、毎日を大好きでいられたらいいな、と思うわけです。

ゴールシーンを冷静に批評するよりも、大声で叫びながら息子とハイタッチしてるほうが、ずっと幸せですから。

ちなみにセルジオさんも大好きですから〜。

 

 

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