夢を叶える

僕が愛したオートバイと、彼を救ったオートバイ。

YAMAHA SR400 20070304-03
YAMAHA SR 400
僕が高校生の頃は、渋谷の街でSRを見かけない日はなかった。宇田川町の交差点あたりであの単気筒独特の排気音を聞くと、少年だった僕の胸が高鳴ったものだ。

行動力のある若者ならすぐに免許を取りにいってオートバイに乗ったのだろうけど、あの頃の僕はただ指をくわえて街を走るSRを眺めているだけだった。

生まれてはじめてカッコイイと思ったオートバイは、僕が幼少期に面倒を見てくれていた叔父のスーパーカブだった。

CubHONDA スーパーカブ

叔父は毎日、スーパーカブの荷台に大きな荷物を載せて仕事へ出かけていった。年に何回か、やむを得ない理由があったときだけ、叔父はスーパーカブの後部シートに僕を乗せて学校や病院へ連れていってくれた。よく憶えていないけど、たぶん50ccのカブだったので、もちろん違法だ。

子どもだった僕にとって、叔父のスーパーカブは夢のような乗り物だった。いつも自転車でふらふらになりながら登っていた近所の長くて急な坂を、スーパーカブに乗ってぐいぐいと登り切ってしまうたびに、いつか必ず僕もオートバイに乗るんだ、と心に誓った。

中学からは全寮制の男子校に進学したので、オートバイを目にすることはめっきり減ったのだけれど、映画少年だった僕はスクリーンを走り抜けるオートバイに心を奪われた。

McQueenTRIUMPH TR6

『イージー・ライダー』でピーター・フォンダと共に炎に包まれたチョッパーのハーレー、『大脱走』でスティーブ・マックイーンが縦横無尽に駆ったトライアンフ、『AKIRA』で金田がネオ東京を疾走した常温超伝導モーターバイク、『ランボー』が孤独から逃げようとしたYAMAHA XT250、『トップガン』でマーヴェリックが滑走路を低空飛行したKawasaki GPZ900R(Ninja)。

銀幕であらゆるタイプのオートバイを見つけるたびに、僕はやっぱり、いつか必ずオートバイに乗るんだ、と心に誓ったのだった。

SteedHONDA Steed

高校生になったある日、退学になった先輩がHONDA STEEDに乗って学校へ遊びに来た。以前はわりと仲がよかったのに、オートバイに跨がった先輩はなぜか僕には目もくれず、あいかわらず学校という閉鎖されたところでぐずぐずしている僕らを嘲笑うかのように、爆音を響かせて去っていった。ちょっと悔しかったけど、やっぱりオートバイに乗りたいと思った。

motorbike.jpg
motorbike.jpg / midorisyu
大学に入って一人暮らしをはじめた頃、時代は空前のダートトラッカーブームに染まっていた。代表的だったのは、キムタクがドラマで乗ったことでも有名になったYAMAHA TWや、トリコロールカラーがクールなHONDA FTRなど。SRはあいかわらず人気だったけど、以前のようなノーマルに近いシックなカスタムやカフェレーサー仕様は姿を消して、こちらもやんちゃなダートラルックが多くなっていた。

2010_02_20_Gent_113716
2010_02_20_Gent_113716 / Timo_Beil
大学に通いながら普通自動車免許を取得した僕は、HONDA ST-50 DAXという原チャリを買った。真面目に大学に通うつもりもなかったので、近所をチョロチョロ走り回れればいいや、と思ったのだろう。

当時毎日のように会っていた親友の一人がHONDA JAZZというアメリカンタイプの原チャリに乗っていた影響もあったかもしれない。それにしてもJAZZは小さいくせに堂々としたアメリカンのフレームでおもしろいオートバイだった。乗っていたやつも、ヘルメットの前部に「肉」と書かれたステッカーを貼ってキン肉マンにリスペクトを捧げるようなヘンなやつだったけど。

shorttrack racing rye house
shorttrack racing rye house / REDMAXSPEEDSHOP.COM
友だちが乗っていたHONDA FTRの後ろに乗せてもらったときは、あまりにも乗り心地が悪かったので、思わず「汚いし乗りにくいし、なんだよこのバイク」と言ってしまったのだが、たしか当時FTRは絶版車で、まだ再版されていなかったため希少価値があったらしく「ふざけんな!」と本気で怒られてオートバイから落とされそうになったこともあった。

大学を中退して、小説家を志しながらアルバイトで生計を立てていた頃、バイトの後輩がKawasaki D-Trackerというモトクロッサータイプのオートバイに乗っていた。カスタマイズされたダートラがまだ主流だった頃、元美容師でセンスのいい彼が乗っていたバリバリモトクロスタイプのやんちゃなD-Trackerはとてもカッコよかった。

My New Motorcycle
My New Motorcycle / -kaz-
結婚して二人目の子どもが生まれて、茅ヶ崎に引っ越した数日後に、しばらく会っていなかった親友が突然SRに乗って遊びにきた。彼は当時人生の谷底みたいなところにいて、親友である僕はおろか、家族ともろくに口をきかず、一人で深い悲しみの深淵を覗きこんでいたのだが、一念発起してオートバイの免許を取って、中古のSRを手に入れると、何事もなかったかのような涼しい顔をして茅ヶ崎へやってきたのだった。

彼はそれから週末のたびにSRで茅ヶ崎へやってきた。引きこもっていたために青白かった彼の顔色が、夏の陽射しに焼かれて健康さを取り戻すした頃、SRが物足りなくなった彼は大型免許を取得して、ハーレーのスポーツスターに乗りはじめた。彼はその夏、最高の笑顔を見せた。

当時、僕は家族4人で660ccの軽自動車に乗っていたので、一人で1200ccの巨大なオートバイに乗る彼がやたらとおかしかったのを憶えている。そしてオートバイには、人を哀しみの淵から引きあげてくれる力があることを知った。

Harley Davidson Nightster
Harley Davidson Nightster / Carbon49
夏の海岸線。R134のコンビニに鮮やかなグリーンのネイキッドが爆音と共に入ってきた。やたら派手な緑色に、カウルの目立つレプリカタイプのオートバイは僕の好みではなかったのだけど、夏の強烈な陽光の下で、そのオートバイはひどく輝いて見えた。今まで僕とは無縁だった「男らしさ」のようなものを、その大きくて筋肉質な車体に感じたのだ。思わず駆け寄って、なんていうバイクですか、と訊くと、浅黒く精悍な顔のおじさんは、にかっと笑って言った。

カワサキのZRXっていうんだよ。あなたも早く免許取りに行った方がいいよ。人生が変わるよ」

僕はそのとき、大人になって忘れていた、いつか必ずオートバイに乗るんだ、という気持ちを、久しぶりに思い出して、胸が熱くなった。

El Camino Motorcycle Show 0041
El Camino Motorcycle Show 0041 / The Javelina
あの日からもう数年が経った。スーパーカブの後部シートに座って瞳を輝かせていた頃からは、三十年以上も経過してしまった。

四十歳が視界に入るようになってようやく、憧れを現実に変える、という人生の法則を知った僕は今、教習所に通っている。

いつか僕もあのおじさんのように、オートバイに憧れる少年に、とろけるような笑顔で言ってあげたい。

「オートバイはいいぜ。昨日まで曇っていた世界が、輝きだすんだ。」



「いつやるか?今でしょ!」ということで37歳にしてオートバイの免許を取りにいくことにした。 | THE KLOCKWORKS

 

 

 

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