前回☞ 深紅の清水寺。この人生に何を願うのか。〈京へ西へ。その五〉
清水寺を後にし、茶わん坂を下りながら、さて次はどこへ向かうか。
〈悟りの窓〉と〈迷いの窓〉のある雲龍院は行きたいが、先に伏見稲荷でもいいか。
考えながら歩いているうちに、トイレに行きたくなり、咽も渇いてきたし、コンビニないかなあ、ちょっと疲れたなあ、お、あんなところにタクシー乗り場があるじゃないの。
それにしてもさっきから、大型観光バスとタクシーが、決して広くない古都の道を爆走されておられる。
京のタクシーはんは、車の性能を最大限に発揮させてはりますなあ、なんて京風のイヤミのひとつでもこぼしたくなるくらいに、イライラオーラを撒き散らしながら走ってんの。
まあ気持ちはわかるわ。湘南に住んでいても、夏の観光シーズンの混雑はうんざりするもんね。まあまあ、憧憬の地に住む者として、ぼちぼちやってきまひょ。
で、タクシーにひょいっと乗っちゃおうかな、とも思ったんだけど、気づいたらスルーして歩き続けてて、そしたら前方、歩道に観光客の群れ。
バス停があって、ちょうどバスが到着するところらしく、みんなで車道を見つめてる。方向的にはそっちなので、なにも考えずにオレもバスに乗りこむ。
こういうね、どこへ向かうかわからないバスに乗る、なんてことが、大人になってからできなかったんよ。事前になんでも決めないと心配でさ。損得と理屈の奴隷やってたから。
だからそれだけでワクワクして楽しいおじさんの一人旅笑。運転手さんそのバスに〜僕も乗っけてくれないか〜。
ところがところが、すぐ先の大きな交差点で、早くも右折して違う方へ向かう無情なバス。どうやら京都駅行きだったらしい。さすがに方向がぜんぜんちゃう。
ということで次のバス停で降りようとするも、車内は混雑していて前まで行くのも鬱陶しい。
もうええわ。こうなったら、降りやすいバス停で降りればいいわい、と悠然と構えていたら、しばらくして、すっと前が空いたので、慌ててバスを降りる。
バス停で降りて、ふと息をついて、笑っちゃったね。目の前、コンビニ。わお。
コンビニでトイレを借りて、水を買って、一息ついて、流れる風の中に水の粒子を感じて、ふと目をやると、鴨川が流れてはるわ。
その鴨川沿いに〈七条〉という駅が見えて、もしやと思って調べてみたら、ここから乗れば、伏見稲荷に着いちゃうじゃないか。ははは。すげえ。
なーんも考えずに、街と人と空気に流されていたら、欲しいもの、必要なものがぜんぶ勝手に揃って、行きたいところに連れていかれるわ。さらさらさら。そーか、伏見稲荷に行きたかったのかオレは。
まさに、目に見えない大いなる流れに乗った感。
流れとか、インスピレーションとか、しつこい笑?
でもホント、そういうのがビンビンな旅だったからね。ユングの言うシンクロニシティってやつを体感した感じだけど、他人が聞いても、ふーん偶然でしょ、ってなもんだよね、まあそれは当たり前だよね。
頭で理解する、ってことと、感じるってことは、まったく別やもんね。
こんな生(き)の言葉のブログなんかで個人の感なんて伝わらんもん。伝わるなんて思ってない。
だから、文芸とか芸術、宗教、いろんな文化が生まれたんだもんな。嬉しいね。そういうのある世界でね。
ついでだから、またしつこく〈流れ〉について書いちゃうけども、
決めないで、流れるようにしてると、何があっても、起きても、たいていのことは、受け容れられるんだよね。
流れるって、起きることに身をまかせているわけだから。
人は、決めるから、決めたことがうまくいかないとき、モヤモヤネガティブな感情が生まれる。
「快晴の清水寺で最高の紅葉の写真を撮る!」とか
「清水寺、雲龍院、伏見稲荷、銀閣寺、哲学の道他、すべてガンガンまわる!」とか
そういうの決めちゃってたら、オレも、あんなに心地よく清々しい気分で、京都びんびん物語じゃなかったもんねきっと。
バスが違う方へ曲がっちゃったとしても、タクシーが危ない運転してようとも、雨が降ろうと、混雑しまくってても、まあ、そういうもんやなあって、流せると、心地よくいられる。
心地いいとき、僕らは、いろんなものが、見える。
日常じゃあさ、いろいろあるから、なんでもかんでも流せるわけじゃないけど、旅なら、いつもよりは、さらさらさらと。
旅ってのは、それを思い出させてくれるよね。
流せないのは、執着しちゃうから。
あの、嬉しかったこと、楽しかったこと、安堵したこと、そういう喜びの裏に、執着って貼りついてる。
あの喜びを今一度、いつもあの喜びを、って願った途端、執着して、流れから外れて、引っかかって、濁り出す。
あれ、またこんな話で、ぜんぜん進んでないわ笑。
ともあれ、七条から鴨川沿いを走る京阪電車に乗っかって、京でもSuica使えんだな、なんて感心しつつ、伏見稲荷へ向かうのでありました。つづく。
☞ 映え(バエ)る猫と伏見稲荷と360度。〈京へ西へ。その七〉