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五月のある平日。茅ヶ崎からオートバイでひたすら海岸線を伊豆下田へ向かった。

前回まで ☞ 茅ヶ崎から、伊豆下田へ。ひたすら海岸線をゆく。

午後四時前に宿に到着。下田市魚市場と道の駅の隣にある、リゾートホテルグループの格安ホテル。

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ツーリング一人旅を歓迎してくれる宿なので、平日であってもオートバイ客が少なくない。

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ホテルから出るとすぐに、下田市魚市場。奥には観光船が見える。

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以前は、オートバイの旅はテントを張って野宿と決めていたのだけれど、地方の寂れたホテルも気楽でいい。

正直、昨今のキャンプブームに醒めてしまったというのもある。孤独を求めて山奥に入っても、最近はどこにでも誰かがいる。行列をなしているキャンプ場は、もはや自然とは呼べない。

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ロードムービーに出てきそうな古びた部屋に荷物をおいて、下田の街をぶらぶら歩くことにする。

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港から街に繋がる橋を渡ると、女の子が一輪車の練習をしている。お兄ちゃんがあれこれ教えているのか、囃したてているだけなのか。

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白いカーディガンのよく似合う女性が、自転車で颯爽と橋を越えていく。綺麗に束ねた長髪を海風になびかせながら、ふいに目を伏せると、去り際にかすかにほほ笑んだように見えたのは気のせいだろうか。

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人のいない観光地に漂う寂寥感に身を浸していると、嗚呼、知らない土地にやってきたのだなあ、としみじみ思う。

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道ばたでおしゃべりをしているおばちゃんに道を訊いてみるが、思いのほか無愛想にあしらわれて苦笑する。もちろん僕はおばちゃんの暮らしに入りこんだ観光客という名の邪魔者でしかない。

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小川沿いにつづく〈ペリーロード〉という石畳の小道を歩いていると、はっとするほど爽やかな香りが漂ってきた。誘われるように歩を進めると、ちいさなお寺があって、境内には白と紫の花がそこら中に咲いていた。

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参道に立ちつくして、清涼で仄かに甘い花の香りを胸いっぱいに吸いこむと、くらくらするほどの旅情に包まれる。

お世話をしている方に訊くと、この花はアメリカジャスミンというらしい。なるほど、このどこか懐かしい爽やかさは、ジャスミンだったか。

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それにしても、うっとりするほど心地よい香りだ。これだけ圧倒的に香るにもかかわらず、クチナシやキンモクセイのようないやらしい強烈さがない。

この場所に、この黄昏に、たった独りで佇んでいられるというのは、なんたる幸福か。後ろ髪を引かれながら、宿への道を戻る。

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ホテルの食事はバイキング食べ放題。味は、まあ、推して知るべし。

ではあるが、独りオートバイで走りまわる旅にはこれくらいでちょうどいい。ネットでは悪評も目立ったが、この価格で飲み放題の食べ放題、好きなときに温泉に浸かれて、エアコンの効いた部屋で誰にも邪魔されない時間を過ごせるのだから、野宿旅の延長である僕にとっては極楽でしかない。いや、極楽は言いすぎにしても。

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つづく……。☞ 天城越えの憂鬱。