ディズニー映画が沁みてくるのは、三十歳をすぎてからだと思う。
子どもの頃は、きれいなお城や愉快なキャラクターにばかり気をとられているし、ティーンエイジャーにプリンセスの物語は生ぬるい。
世界の酸いも甘いも噛みわける大人にならないと、ディズニー映画の完成度や教訓はあまり見えてこないし、見えたとしてもくだらなく思えてしまうだろう。
物語には、力がある。
38歳の僕がこの映画から得た教訓と、感じたことを「ありのままに」書いてみる。
ネタバレを大いに含むので、まだ見ていない人は見てから戻ってきてください。
『アナと雪の女王』が教えてくれる3つの教訓
1.できると、信じて!
幼い頃、自分の魔法で妹アナを傷つけてしまったエルサは、城の奥深くに幽閉されてしまう。
両親が亡くなってからも「魔法をコントロールできない自分は、外に出てはならないのだ」という思いこみに支配されて、いつまでも心を閉ざしたまま。
愛するアナに「王国に夏を取りもどして」とお願いされても「できないのよ!」と拒絶してしまう。
できないと信じているエルサには、夏を取りもどしたくても、方法がわからないのだ。
反してアナは、あらゆることに対して、根拠なく「できる!」と信じている。ときにそれは失敗も生むけれど、それでも信じて突き進む。
「自分にはできない」と思いこんでいる人には、解決策は見えないけれど、「できる」と信じて行動を起こしていけば、必ず道は拓ける。
できると信じても、できないと信じても、どちらも正しい。
___ ヘンリー・フォード
2.ありのままの自分でいいの!
昂ぶった感情を抑えきれずに魔法を使ってしまい、王国を逃げ出したエルサは、もう悩むのをやめようと決意する。
魔法を封じ込めることができないことに苦しむのではなく、それを認めてしまえば、自由になれると気がついたのだ。
頭が悪い。背が低い。ブサイクだ。運動神経が鈍い。人前に立つと震えてしまう。身体が不自由だ。臆病だ。育ちが悪い。貧乏だ。感情(魔法)をコントロールできない。
だとしても、そうなんだからしょうがないじゃないか。ありのままの自分でいいじゃないか。
そう思えたところが、人生のスタートだ。自分の良いところも悪いところも認めてはじめて、そこから高みを目指すことができるのだ。
心を閉ざしていたエルサは、ようやく自分の人生をスタートさせる。
〈そういうものだ〉と〈それがどうした〉という言葉は人生における二大キー・ワードである。
___村上春樹
3.「真実の愛」って何?
エルサの魔法によって心が凍りはじめたアナを助けられるのは「真実の愛」だけだという。
真実の愛と言えば、愛する男性にキスしてもらうしかないというところだが、王子ハンスは愛どころか欲にまみれた悪者だったし、純朴な青年クリストフも、あと一歩のところでアナを救うことができなかった。
エルサを救うために自らの身を投げだしたアナは、氷になって死んでしまう。
けれど泣き崩れるエルサに抱かれながら、アナの身体は少しずつ溶けていき、真実の愛の力で生き返るのだ。
誰もがクリストフのキスこそが真実の愛だと思うところだが、そうではなかった。ならば真実の愛とは何だったのか。
アナは、誰の愛の力で生き返ったのか?
彼女は、自分のエルサに対する「真実の愛」の力で、凍った心を溶かしたのだ。
オラフが言うように「愛とは、自分より相手のためを想うこと」だ。
ディズニー映画といえば、王子様にキスしてもらったり、助けてもらったりしてハッピーエンドを迎えるのが基本だが、この作品はこれまでのそういったプリンセスストーリーを覆した。
誰かに助けてもらうんじゃなくて、誰かを助けようという能動的な行動こそが、他人に与えてもらうんじゃなくて、自分が与えるのが「真実の愛」なのだと。
僕らは人を変えることはできない。
幼い頃、エルサの魔法によって頭を凍らせてしまったアナは、岩の妖精トロールの魔法によって助けられる。
トロールの長は言う。
「心を変えるのは難しいが、頭は簡単に丸めこめられる」
成長したアナはふたたびエルサの魔法によって今度は心を傷つけられ、トロールはふたたび言う。
「頭は簡単だけど、凍った心を溶かすことができるのは、真実の愛だけだ」
僕は映画館の隣の席に座っている家内を横目で見やって、深く頷いてしまった。
僕は、この人の心を溶かして、この人を変えようとしていたのかもしれない。
僕は彼女のためを想って、ランニングを勧めたり、本を読ませようとしたり、ライフハックを教えたり、ポジティブな思考法を押しつけたり、いろんなことをしてきたけれど、彼女は何も変わらなかった。
彼女の心は溶けなかった。
なぜなら、僕は彼女のためにと思っていたけれど、じつは自分のために彼女を変えようとしていたにすぎないからだ。そのことに気がついてしまった。
それは「真実の愛」なんかじゃない。
彼女の「ありのまま」を許容し、愛し、肩を並べて同じ星空を見上げながら歩みを進めることが、きっと愛なんだろう。
「大切な人のためなら溶けてもいい」オラフ
「つらいときには、夢を見よう」
やはりディズニーの気恥ずかしいほどの物語が沁みてくるのは、三十歳をすぎてからだと思う。
人生には楽しいことばかりじゃなくて、けれどつらいことばかりじゃなくて、いい日もあれば悪い日もある、というのを、実感として得ている大人にこそ、プリンセスと魔法の物語が必要なのだ。
雪だるまのオラフが「つらいときには、夢を見よう」と言ったように、ディズニー映画は、なにか苦しいものを背負っている人のためにこそ、作られているのかもしれない。
つらいときには、夢を見よう。僕らを前に進ませてくれるのは、希望だけだから。
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