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2014年夏に出かけたバイク一人旅の記録。

四日目。本栖湖のキャンプ場に連泊して、ようやく心が現実から離れた。どこへ行くかは決めていないが、とりあえず家の方向へ走ろうと決めたのだが……。

前回まで ▶ 湖のほとりでため息をついて、僕は家に帰ろうと決めた。【バイク旅行記2014夏#5】

 

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あいかわらず本栖湖の朝は美しい。そして何より静かだ。

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木々の間から差す朝の陽光もやさしい。人の少ないキャンプ場の朝は最高だ。この自然のすべてが僕のものになる。

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朝食は簡単にインスタントスープを使って雑炊にする。

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昨日炊いた白飯が余っている。夏とはいえ湖畔の夜は冷えるので、悪くなってはいない。それにしても昨夜は秋用のシュラフに潜りこんでちょうどよかったのだから、だいぶ気温が下がったんだろう。

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固形スープに熱湯を注いで白飯をかるく煮るだけで、心身が温まる雑炊ができた。

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スノーピークのトレックコンボマグカップシェラカップと、今回はフル装備で持ってきたが、一人には多すぎたかもしれない。

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のんびりと撤収。

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本栖湖の「浩庵キャンプ場」は、そのままの自然を活かしたリアルなキャンプ場で、本当に心地よい時間をすごすことができた。

ファミリーの多いハイシーズンや休日はわからないが、ぜひ人の少ない秋冬に再訪したい。

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とりあえず目的地は決めずに、家の方向へ向かうことに。

R139から富士パノラマラインと呼ばれる気持ちのいい道を抜けていく。

精進湖をすぎると辺りは鬱蒼と茂る森。交通量は少ないが、たまに地元の車やダンプがかなりのスピードで現れるので、のんびりもしていられない。

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晴れた午前中だったので気持ちよかったが、夜は寂しそうな一帯だ。

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せっかくオートバイなのだからと、路肩によせてしばし新鮮な森の空気を胸に満たす。

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この辺なら人もいないし、テントを張って野宿すれば、それこそ「完全な孤独」が手に入るだろう。

「押しつけられた孤独は辛いものですが、自ら選択した孤独は格別です」

というのは、若い頃バイク一人旅を繰り返していた芥川賞作家・花村萬月さんの言葉。

考えてみれば、僕は記憶の奥底に眠っていたこの言葉があったから、一人で旅に出ようと決めたのだろう。

追いつめられた現実から逃れるために、自ら孤独を選択しに。

などと感傷にひたりながら森の奥を眺めているうちに気がついたのだが、この辺一帯はいわゆる富士の樹海と呼ばれるところではないか。

延々と立ちならぶ樹木の先は昼間だというのに暗くてよく見えない。たしかにここなら一人静かに死を選ぶのも難しくないだろう。

こんなところにテントを張るのはさすがにない。心が疲れているままでは、闇に引きこまれて二度と戻ってこられないような気すらしてしまう。僕は苦笑しながらバイクを走らせた。

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このままR139を進むと、あっという間に山中湖に着いてしまうので、遠回りをすることにした。

「ひばりヶ丘」という信号から県道71号線に入り、富士山を西からぐるっと回っていくルートだ。

何度か道に迷ったが、距離がないのでのんびり走れる。昼前には「富士山スカイライン」の西臼塚駐車場というところに到着した。

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広大な敷地の駐車場に駐まっている車は数えられるほど。

こんなところで何をやっているのかと眺めていると、運転席で文庫本を読んでいる男性と目が合う。辺りはさっきまでの青空が嘘のようにどんよりと曇り、森の匂いが強い。

平日の午前中に車でこんな所までやってきて本を読むなんて、他にやることがないのかなどという思いが一瞬よぎったが、僕だって同じようなものだ。あれこれ言う資格はない。

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それにしても緑が濃厚だ。本栖湖の自然も深かったが、この森には生命の気配が充満している。草いきれが強く、虫の鳴き声がうるさく、まったく人がいないのに、ざわついているようだ。

立ち入り禁止の看板を眺めながら、ここは本当に人が入ってはいけない場所なのかもしれないと思った。

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その先にある「水ヶ塚公園」駐車場。マイカー規制された夏場に五合目まで走るシャトルバス乗り場があり、晴れていれば眼前に壮大な富士山が広がるらしいのだが、この日はあいにくの天気でまったく見えなかった。

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富士山周辺は曇っていたせいもあって肌寒かったのだが、山を下りるとまた夏空が戻ってきた。

ここから家へ帰る道中のキャンプ場といえば道志村近辺になるのだが、道志の森キャンプ場はいつも家族で利用しているので今回は避けたい。

ということでネイチャーランドオムという、以前から行ってみたかったキャンプ場に電話をかけて予約を取る。

平日でバイクだとだいたい当日でも入れるので気が楽だ。ただしこの日はボーイスカウトか何かのグループが入っていて、キャンプ場の半分が使えないというが、他の利用者も多くはないだろうからいいだろう。

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昼は迷ったのだが、いつもの「小作」でほうとうを喰らう。貧乏旅行のつもりがこれだけは我慢できなかった。

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腹も満足した。さあ、いざ道志へ。

僕のキャンプ道具