コラム/エッセイ

お墓参れ。

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親父の月命日には、なるべく墓参りに行くことにしてる。

笑っちゃうよな。生きてるときは、正月とか年に数回しか会わなかったのに、死んじまったら毎月茅ヶ崎から電車に揺られて足をはこぶっていうんだから。

まあ、親と子ってこんなもんかもしれないよな。死んだ親はもう小言いわねえもんな。でも今となったら言ってほしかったりしてね。バカだよなまったく。

べつにとくべつ殊勝な気持ちが芽生えたとかじゃないんだ。なんとなく、そうしてる。もしかしたら、ついでに東京でうまいもん食いたいだけかもしれない。

墓参りの後は、親父が懇意にしてたトラットリアでメシ食ったり、この前はテレビで見て気になってた牛タン屋へ行ってきたよ。とろっとろの茹でタンが絶品なんだ。

昼すぎに家を出て、陽が傾いた頃に広尾の墓地について、花買って線香あげて水かけて。掃除はママがすすんでやってくれる。

都心のど真ん中にすげえ広くて静かな墓地があってね。周辺とのギャップのせいか、大樹の影が長く伸びる墓地を歩いていると、ひどく心も静かになる。

そこに着くまではずっと他のこと考えてて、今晩何食おうかなとか、明日波あるかなとか。でも、墓前に立った瞬間、うわあって胸が熱くなる。ああ、親父、ここにいるなって。ああ、親父って人が、生きてたんだな、いたんだなって、涙がおちそうになる。

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なんだろうな。お墓って、豪華に立派にするのには意味があるんだなって、はじめて知ったよ。クフ王のピラミッドとか皇族の古墳じゃないけどさ、やっぱりお墓の佇まいには、故人の存在感がどんと立ち現れる。

うちだってそんな立派なお墓じゃないし、立派だからいいってもんじゃないけど、墓前に立つと、俺がいまここに立ってるのは、連綿とつづいた命の結果なんだなってことが、魂に沁みいってくるみたいなんだ。

沢庵和尚が言ってたように、俺たちは「命を繋ぐ」ために生まれてきたんだな、ってのが、理屈じゃない、深いところで腑に落ちる。

だから俺は、生前言えなかったことを、せっかくだから墓前で手を合わせてぶつぶつ呟く。

親父。ありがとうな。
俺はどこまでつっぱったって親父だった。しょせんリトル親父だよ。
親父に認められたくて、認められないって勝手にすねて、違う人生を生きようとしてても、どうしたって親父だったよ。
気が小さくて、そのくせ自尊心だけはいっちょまえで、肝心なときに肝心なことが言えないような。
でも俺が今こうして、好きな海の街で、にぎやかな家族とあちこち迷走しながらも笑って生きてられるのは、ぜんぶ親父のおかげだよ。
親父にしかできなかったことがあって、そんな親父がいたから、息子の俺は親父には見えなかったその先の世界を見て、その歩みはそんなに早くないけど、きっと息子たちがまた、俺や親父が見えなかった世界を見てくれる。そうやって、わが家はすこしずつだけど、進んでるよな。
また来るよ。俺はまだまだだけど、見守っててくれよな。

なんつって。

過日、IKEAで親父に似合うようなオシャレなガラスのキャビネットを見つけたので、それを仏壇兼お酒の棚にしたんだ。

朝起きて、ガラス戸を開けて、線香あげて、手を合わせる。今日もめいっぱい生きるぜ、なんてマジメぶって。寝る前にも手を合わせて、灯を落とす。今日はちょっとサボっちゃったけど、明日はがんばるよ、なんて言い訳して。家に仏壇をおく日がくるなんて想像もしてなかったけど、案外わるくないもんだな。

親が早くに亡くなっちゃうって、わるいことばかりじゃないんだ。あんだけ遠くにいたと思ってた親父が、今はどこにでもいるんだからな。

俺の好きなある人が「親が子どもに最後にしてあげられることは、死ぬことだ」って言ってて、なるほどなって思ったけど、今はもっとすげえよくわかる。

そこ勘違いすんなよな。親なんていらないってことじゃないぜ。

親父がいたから今の俺がいる。でも次は、俺が俺をまっとうする番だってこと。その次は、息子。順番が回って、世界はつづいてくんだ。生きるって、バトンを繋ぐってことだろ、沢庵よ。

だから俺はこれからも、自分が信じた道をとことこ歩んで、うまいもん食って食わせて、笑って生きていくよ。

だから、広尾とか麻布とか、どこでもいいけど、安くてうまい店を知ってたら教えてくれよな。俺がうまいもん食って笑ってたら、親父もばあちゃんもじいちゃんもきっと喜んでくれるはずだから。

なんかいいこと書いてみたけど、俺こんなのすぐに忘れんだ。忘れるから、また来月も墓参るんだ。じゃーね。

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