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過日。幼少期に暮らしていた山梨の田舎に遊びにいって、「ほうとう」を食ってきました。

俺を育ててくれたおじちゃんおばちゃんもいい年のじいちゃんばあちゃんになっていて、そりゃ小学生だった俺が四十すぎのおっさんになってるんだからあたりまえなんだけども。

ほうとうってさ、みんな知ってるかな?カボチャ、ジャガイモ、ニンジン、大根、キノコなんかの食べごたえのある根菜類や豚肉を味噌で炊いた、幅広でもっちりした煮込みうどんで、なんてことはない田舎料理なんだけどね。俺にとってはごちそうっていうか、おふくろの味ってやつでね。

大人になってからは、キャンプや旅行のついでに山中湖の『小作』とかで食べたりもしたんだけど、お店のほうとうってぜんぜん違うのよ。

お店で出てくるほうとうは、素材ひとつひとつの味がクリアで、歯ごたえもよくて、品があって、すごくおいしい。

でも本当の、っていうか、家でおばちゃん、お母ちゃんがこしらえてくれるほうとうってのは、煮込んで、具材が溶けて、ほうとうもとろけて、食材の輪郭も取れて、味全体がまろやかに角が取れてかぎりなくやさしい味なの。

だから、一番うまいのは翌朝のどろっどろのやつなんだけどね。きっと武田信玄公だって、冬の山中に張った陣で、このどろどろのこそを愛したと思うよ。

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今、この恵まれた日本って国では、金さえ出せばいくらでもうまいもんが食えるでしょう。そうじゃなくても、不況だなんだって言うけど、古今東西どこの歴史を紐解いたって、平民がこんなかつての王様みたいな食生活をしている国はないですよ。コンビニとか昔の人からしたら極楽でしょ。

そんな豊かな我が国において、いくら金を積んでも食べられないものが、唯一「家でおばちゃんがこしらえてくれるほうとう」じゃないかって俺は思ってるんだ。

ってことで、おばちゃんの味を受け継がねばならぬ、と強い使命を抱きながら、うちの家人にも食べてもらって、作り方とか味噌の種類とか適したほうとうをどこで手に入れるかなんかを教えてもらってきたのです。

おばちゃんの娘さんで、俺の姉代わりだったねえちゃんが詳しく教えてくれたので、これでわが家でもいつでもあのどろどろのほうとうを食うことができるようになったのですよ。いやたまらんね。

これべつに、ほうとうおいしいからみんなも食べてね、って話では決してなくて、たぶんこんなにほうとうを愛しているのは俺くらいじゃないかって思うくらいで。最近は山梨でも若い人は食べないのかもしれない。

だけど伝統のある郷土料理を残していきたいよねって話でもなくて。けれど、うまいものって高けりゃいいってもんじゃないよねって話でもなくて。なんだかよくわかんねえけど笑。

年を重ねていくと、うまいもんっていうのは、慣れ親しんだ味ってのが大きいんだよな。内田百閒っていう、夏目漱石のお弟子さんだった頑固なじいさんも、毎日家の近くの駄蕎麦ばっかり食ってるうちに、昼はもうそれしか食えなくなったっていうし。

人にススメたりどうこうするわけじゃなくて、誰がなんと言おうと、自分はこれ好きなのよね、ってひそかに愛するもの、食べ物でもそうじゃなくても、そういうのが増えてくと、ほくそ笑んじゃうね。楽しいね。

実績豊富な栄養士でもあるねえちゃんには「中年からは、なるべくたんぱく質をたくさん摂って、炭水化物はおまけ程度にしなよ」って言われながら、満腹中枢の麻痺したおじさんは腹がはちきれそうになるほどほうとうを貪り食ったのでありました。マジ食い過ぎました。

栄養たっぷりで、病みあがりとかに良さそうですよ。

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▲ 二日目のどろどろほうとう。

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▲ カボチャもまあるく煮えちゃってて。

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▲ インゲンや白菜、うどんも輪郭を失って。

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▲ いくらでも食べられるのでありました。