映画

キューブリックの投げた骨。IMAXと『2001年宇宙の旅』

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キューブリックの『2001年宇宙の旅』がIMAXで観られるというので出かけてきた。

後の多くの映画人に大きな影響を与えた言わずと知れた名作ではあるけれど、1968年、つまり50年も昔の作品を、今さらIMAXで観ることに意味があるのか、という思いもあった。

若い頃DVDで何度も観ていたし、死んだ親父が飼い猫にHAL(ハル)と名づけるくらい好きな映画だったので肌に馴染んでいたし、なにより本作に影響を受けたであろう現代の映画作家たちが、たとえばアルフォンソ・キュアロンが『ゼロ・グラビティ』を、ノーランが『インターステラー』を、というように、映像技術をより進化させた作品を見せてくれる今、IMAXで鑑賞したところで、太古の化石のように感じて苦笑してしまうのではないかと。

たしかに映像技術の拙さは目についたが、たとえば冒頭に出てくる猿人はどう見ても着ぐるみにしか見えなかったし、2001年なんてとっくの昔になっている今、50年前の先見的な人々が想像した未来の技術や暮らしが実際のものとはだいぶ違っている部分には苦笑しないでもないのだけれど、なにしろ総てにおいて美術デザインが秀逸で、もう一つのより魅力的な未来、パラレルワールドを見せてもらっているような贅沢な気分になっていくのだった。

もう隅から隅までカッコよかった。宇宙旅客機のフォルムから、クラシカルなレザーの座席、宇宙ステーションに並ぶソファや家具調度品、男性が着るダンディなスーツの上下に至るまで、北欧のデザイン家具を彷彿とさせるセンスのいいものばかりで、それらを見ているだけでニヤニヤしてしまう。

徹底的な科学考証に基づいてデザインされたという宇宙船やデバイスなども、当時のセンスが反映されているのかデザイン性が異常に高くて、作品全体が他のどのSF映画とも異質な〈美術作品〉のような佇まいを感じた。

もちろんIMAXの大画面、大迫力で観る価値はたしかにあった。

いつものようにDVDでテレビ画面で観たり、あるいは100インチのプロジェクターを用いたとしても、あのIMAXの臨場感、キャッチコピーにあるところの「watch a movie or be part of one(映画を観るか、映画の一部となるか)」というくらいに身に迫ってくるものはなかったはずだ。

「人類の夜明け(the dawn of man)」の章で、猿人が初めて獣の骨を〈道具〉として使う有名なシーンも、IMAXの大迫力大音量で見せられると、ただ猿が骨を振りまわしているところを見せられているだけなのに、人類がモノリスによって知恵をつけることによって大きな進化の一歩を踏みだした、という〈壮大で運命的な一瞬〉の重厚さが胸に迫ってくる。

しかし、それだけの大迫力やクールな美術デザイン、古めかしくも美しい映像、たとえば円舞曲「美しき青きドナウ」に合わせて、宇宙ステーションと宇宙旅客機が踊るようにランデブーする優雅なシーンにうっとりはするものの、ときおり眠くなってしまったのも事実。

というのも、様々な理由があるのだろうけど、とにかく間が長い、のだ。ひとつのカット、シーン、描写が冗長で、現代の映画なら数十秒ですませるようなカットに何十分も使ってしまうようなゆったりしたペースなので、その美しさや優雅さに身をまかせているうちに思わずウトウト……なんてことになったりもした。

けれどその〈冗長さ〉は逆に言うと、たとえば過剰した自意識に苦しむ人間の観念を深く丁寧に描いた純文学の小説が醸し出すような、えもいわれぬ〈芸術性〉を生み出している。

これだけの規模の大作で、ここまで芸術性の高い映画というのは、これからもう生まれないのではないか。

ノーランとかイニャリトゥとかチャゼルとか、エンタメと芸術性をうまく融合させた映画作家にその志は引き継がれ進化しているとも言えるけれど、これだけの〈間〉を取る映画は、もう生まれることはないだろう。あ、押井守さんがやってたっけ?笑。

なんだかIMAX過剰賛美っぽくなってしまったけど、そうではなくて、芸術性や哲学性や先見性なんかばかりが注目されてしまう作品だけれど、CGもなく映像技術が拙かった時代に、劇場の大きなスクリーンと大音量でオーケストラのように観客をストレートに圧倒させようという意図の元にこしらえた映画だから、やっぱり劇場で見ないとすべては伝わってこないなあって話です。

だって本当に、先に書いた猿人が骨を振りまわすシーンも、宇宙ステーションのランデブーも、そこだけ切り取って額に入れて美術館に飾りたいくらい美しくてね。若い頃はまったく感じなかったけどなあ。HAL9000の暴走もじつにおそろしかったし、モノリスが発した電磁波の音も危険を感じるくらいに耳をつんざいたもの。

時代はCGをメインにした方向へ舵を取っているけど、映像技術が乏しいからこそのまっすぐさ、シンプルな舞台装置で心を揺さぶる表現力には、やはりいつものことだけれど、何度も、キューブリックに脱帽するばかりです。

キューブリックが映画界に投げた骨は、これからも形を変えて、新しい映画に引き継がれていくのでしょう。

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