春のくせに凍えるような雨の朝。
頭が冴えていたので、調子よく仕事に励んでいると、書斎に猫がやってくる。
にゃあにゃあにゃあにゃあ、にゃあにゃあにゃあ。
寒いのはわかるが、こっちにだって事情がある。そういつもいつも、おまえを膝にのせてのんびりしてはいられないのだ。
にゃあにゃあにゃあにゃあ、にゃあにゃあにゃあ。
コイツにそんなことがわかるはずもないか。
おまえのエサ代を稼がなけりゃならんのだがな……。
根負けしてソファに移ると、あたりまえだろうって顔をして、とん、と膝に飛び乗ってくる。
ごろごろごろごろ、ごろごろごろ。
咽を鳴らしていい気なもんだ。
やがて満足したのか、ふいに、素知らぬ顔で部屋を出ていく。
猫はいつだって、好きなときに、好きなようにやってる。
まったく、いい気なもんだ。
がりがりがりがり、がりがりがり。
寝室のドアに爪を立てる音がきこえる。
まだ寒いのでベッドのなかであたためてくれ、とでもいうのだろう。さすがにそこまでやってやる気にはなれない。
無視して仕事を続けていると、きいっと、ペットドアを開ける音。
覗いてみると、僕の寝床で布団にくるまって、満足そうに眠りこけている。
僕が気にかけなくたって、放っておけば、勝手にやるんだよな。
好きなときに、好きなように。いい気なもんだ。
ふさふさの白い毛を眺めながら、ふと思う。
いや、コイツだけじゃない。
みんな、僕だって、誰だって、なんだかんだ、ああだこうだ、いやいや言いながらも、けっきょくのところ、自分の好きなように生きてるんじゃないかと。
お互いさまだ。僕は勝手にする。みんな勝手にすればいい。
がりがりがりがり、がりがりがり。
だから今日だって僕は、一人書斎に籠もっては、どこに辿り着くのかわからない文章を書いている。
Comments by 茅ヶ崎の竜さん
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