『マイ・インターン』という映画が好きです。

ボクがずっとファンであるデ・ニーロとアン・ハサウェイが共演しているから、というのもあるのだけれど

ナンシー・マイヤーズという女流監督が、世界の明るい上澄みだけをすくいあげてこしらえたような、このポジティブな世界観が好きなんです。

たまに、思考や視野が狭くなったり、息詰まりそうになったときにこの映画を観ると、ほっと、ちからがぬける。

先日。それと同じような清涼感というか、それまで靄がかかっていた景色がぱあっと晴れ渡るような、そんな心地になる作品があった。

それは、川端康成の『伊豆の踊子』。読むのは高校生以来かしら。

ちょうど西伊豆旅行から帰った晩で、陽灼けと泳ぎ疲れでくたくたになっていたのだけれど

ついさっきまで車で走ってきた伊豆地方の地名が出てくると、妙な親近感を覚えて、簡潔で瑞々しい文が、染みいるように、すっと、入ってきた。

ものすごく乱暴に説明すると、自己否定と傷心を抱えた若者が、伊豆へ一人旅に出て、そこで出会った旅芸人と一人の美しい踊り子との触れあいによって、自意識を解放する浄化の物語です。

ふふふ。そういえばボクも数年前、こころがへこたれて会社を辞めたときに、オートバイに乗って一人で伊豆半島を旅したなあ、なんて思い出したら、笑みがこぼれてきた。

竹西寛子は、本作を 「自力を超えるものとの格闘に真摯な若者だけが経験する人生初期のこの世との和解」と解説している。

「この世との和解」なんだって。なるほどなあ。そうだよなあ。

ボクはもう若者というような年齢でもなかったのだけれど、たしかにあのとき、自然溢れる伊豆の地で、ずいぶんと遅ればせながら、この世との和解をしていたのか。

それはさておいて、『伊豆の踊子』、この忙しない時代に読むと、とってもいいですよ。

夏の物語ではないのだけれど、まるで岩の隙間から湧き出る清水のような清涼感をもたらしてくれて、とっても、気持ちがいい。

それは、作品のちょうどいい短さと、川端康成の簡潔で洗練された、無駄のない文の芸によるところなんでしょうけど、読後に思いのほかのカタルシス、というには大げさな、けれど清々しい気持ちになるのです。

詩のような、俳句のような情感に、ついまたページをめくってしまうような。

心静かにおちつきたいときも、きっといいんじゃないかな。

自分を捨てて、この世との和解したことありますか?

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