コラム/エッセイ

正論を捨てて、幸せになる。__ネット時代だからこそ小説を読む。

R0000562

人はなぜ、小説を読むのだろう?

ネット隆盛、出版不況の時代。NETFLIXやYouTubeでいつでもどこでも気軽に映像を楽しめるし、ネットやビジネス書の文章はどれも早くわかりやすく読みやすく簡潔に書かれている。物語も情報も足りている。いや、必要以上に氾濫していると言っていいくらいなのに、なぜこんな、読解の労力と時間を必要とするまどろっこしいものを、ぼくは読みつづけるのか。

平野啓一郎さんは、『小説の読み方』の中で、「小説とは、何なのだろうか?」という問いに、こう説明している。

なにか、世間一般で正しいと信じられていること、常識だと思われていること、エライ人が、立派な言葉で「今という時代はこんな時代です」と抽象的に語ってしまったりすること__そういう諸々に対して、違和感を感じたり、退屈したり、間違っていると考えたりして、もっと具体的で、生き生きとしていて、滑稽で、かなしくて、胸が躍るようで、切なくて、美しくもあり、また馬鹿馬鹿しくもある、感動的な話が人間にはあるはずだと信じること。そんなしゃちほこばった言葉では、到底掬(すく)い取れないような現実が、人間にはあるのだと信じること。それが、小説が求められる理由だろう。__『小説の読み方~感想が語れる着眼点~』平野啓一郎

ネットや新聞や週刊誌やビジネス書やSNSには、たいそうご立派な「正論」ばかりが溢れかえっている。

不倫する女性タレントはゲスだ。シャブをやめられないミュージシャンは人でなしだ。ネットを活用しないと生き残れない。早起きしてランニングして炭水化物を控えろ。悩みがなくならないのは人を見下しているからだ。老人は運転免許証を返すべきだ。公共の場でタバコを吸う奴は馬鹿だ。子どもを殴る親は死ね。

世の中は「正しいこと」と「許せないもの」に充ち満ちて、それが「常識」と「規制」となって、ぼくらの社会は成り立っているけれど、そんな「正論」だけでは、掬い取れない事実が、たしかにある。

極端に言えば、「人殺しを肯定する」ことができるのが、小説をはじめとする表現だけなのだ。殺人者や犯罪者、不道徳をはたらく者の苦悩や生い立ちを生々しく思い描き、彼らの哀しみを慈しむことができるのは、虚構だけが成せる業である。実際の犯罪者を擁護すれば、たちまちのうちに炎上するだろう。

バカリズム脚本のドラマ『黒い十人の女』に「わかっちゃいるけどやめられないから不倫なのよ」という台詞があったが、そういう、決して正しいことではないけれど、人ってそういうこともあるよね、という「許容」が、物語の中では成立する。ベッキーを許せない人も、『黒い十人の女』は楽しんで見る。

言うなれば物語(虚構・表現)とは、ぼくらの「間違いを許してくれる」最後の、そして唯一の砦であり、その中でも小説こそが、人の心の深いところまで沁みいる力を持っているんじゃないだろうか。

正論は、なによりも人を傷つける。正論は、あなたの過ちを許してはくれない。正論は、あなたの弱さを浮き彫りにし、あなたを否定する。

ぼくもかつて、若さ故に大きな過ちを犯したことがある。そのとき、そのことに対して最も腹を立てるべき人が、ぼくにこう言ってくれた。

「君がやったことは、決して褒められたことではない。けれどそれは、決して許されないということでもない。だから、自分の生きたいように生きなさい」と。

ぼくはあの人のように大きな人になりたくて、小説を読みつづけるのかもしれない。

もう一度引用しよう。

具体的で、生き生きとしていて、滑稽で、かなしくて、胸が躍るようで、切なくて、美しくもあり、また馬鹿馬鹿しくもある、感動的な話が人間にはあるはずだと信じること。そんなしゃちほこばった言葉では、到底掬(すく)い取れないような現実が、人間にはあるのだと信じること。

スピードが求められるこの時代、正論だけでは掬い取れないことがますます増えていくだろう。これからの時代こそ、あらためて小説が読まれるべきだと思うんだけどなあ。

 

関連記事

  1. ライフハック

    小さなやかんと大きなやかん__明日使えない知識を沸かす。

    (写真は本文と関係ないっす)村上春樹さんが、勉強と知識の種…

  2. コラム/エッセイ

    ドヌーヴと西郷どんと狩撫麻礼と壇蜜。|ブログ日記

    2018/01/13/土 晴れ。日陰は寒い。ハリウッドのセクハラ問…

  3. コラム/エッセイ

    偏屈じじいのけじめとJamieの歌声に涙し、僕は懸命に生きようと誓った。『グラン・トリノ』

    観終わってもいないうちに思わず唸ってしまう映画というのがある。…

  4. コラム/エッセイ

    僕の街においしい中華屋さんがなくても。

    野菜炒めが好きです。豚肉とキャベツといろんな野菜を塩胡…

  5. コラム/エッセイ

    世の中のすべての唐揚げはおいしい。

    ぼくの友人に鶏の唐揚げが大好きな男がいて、彼に一度訊いてみたこ…

最近の記事

〈note〉エッセイやコラムはこちら


月別の過去記事

  1. デジタルツール/Webサービス

    昨日、村上春樹さんからメールが来ました。
  2. コラム/エッセイ

    秋の空と海坊主。2017/11/06
  3. ビジネス/成功

    『拡張現実ライフ』アプリ開発からブログ収入まで。マルチブロガーが見せてくれる夢と…
  4. 名言

    遊びの天才・所ジョージさんに学ぶ!「人生を楽しむための珠玉の名言集」
  5. 写真/カメラ

    写真をクールなポスター風イラストに加工する方法
PAGE TOP