☞ 祇園の夜の灯り。人工の風景。木屋町の町中華〈京へ西へ。その十一〉
京都旅三日目。眠くてね、朝飯ぎりぎりまで寝てたよこの朝は。
でもここは前に書いたとおり、朝ごはんが絶品、オレの中で日本一だからね。眠かったけど、楽しみにして起きたんよ。
☞ 日本で一番、世界で一番うまい朝飯だって思ったもんね。〈京へ西へ。その三〉
今朝のメニューは、おばんざいの小鉢がいくつかと京風漬物は同じで、メインが鮭の西京焼きと水菜とお揚げのお鍋、あと揚げ出し豆腐。
昨日の朝ごはんはおいしくてぶったまげたけど、二日目だからそんなにインパクトないかなあって思ってたんだけど、イヤイヤイヤ!
ダントツ最高にうまかったのが、水菜とお揚げのお吸い物!ぐわわわ!
水菜とお揚げと生麩と小さな丸餅が一つ、鍋でぐつぐつ煮えててね、ビジュアル的にはそんな見栄えしないんだけど、一口啜ったら、うわあああ、って。
沁みるのよ。朝の胃に、旅と酒でちょっと疲れ気味の胃袋に、じんわり、やさしく沁みて、それでいて、甘みと旨み、コクが濃いの。
「コレめちゃくちゃ美味しいんですけど、お出汁は何でとってるんですか?」
またもや感激感嘆して、女将さんに訊いてみると、
「カツオとコブ(昆布)どすえ」
と、なんでもないように言う。
「え、カツオとコンブだけで!何がこんなにおいしいんだろう?」
と、さらにつっこんでみると、まず、お揚げが美味しいんじゃないかと。いつも使ってる京都のお豆腐屋さんのお揚げで、これが抜群に美味しいので、いいお出汁が出てるのだろうと。
それから、水菜も違うかもしれまへんなあ、と。
ああ、たしかに、しゃりしゃり、しゃきしゃき、ふだん食べてる水菜より、細くて、でも食感は強くて、味も濃い気がする。
そして、生麩も、とろりと旨い。
もちろん、鰹と昆布だっていいものを使ってるんだろう。
つい頭でっかちになって、——何で出汁をひいているか、ばかり考えてしまってたけど、料理の味って、ぜんぶひっくるめて、だもんね。
ベースのお出汁に、具材がフィットして、マリアージュして、うわあ、って味になる。
嬉しいね。うん。ほころんじゃう。
鰹と昆布と水菜とお揚げ。シンプルな具材なのに、丁寧に選んで、丁寧にこしらえたら、こんなにうまいもんができるんだって。
——食べ物がうまいっていいもんです。生きている証のようなもんです。
っていう、小説の一節を思いだしたよ。
食べものがうまいって、毎日の、なんでもない、生きる営みに喜びを感じるってのは、たしかに、生きてる証だよな。
西京漬けの鮭も、甘さがやさしくてね、お芋の似たのも、ほっこりと、やっぱり、やさしい。
揚げ出し豆腐も、お出汁が甘いんですね、京風は。
オレ、和食の砂糖みりん醤油系の甘さって、あんまり得意じゃなかったんですよ。めんつゆ的なやつ。嫌いじゃないけど、しつこく感じられて、ちょっと。
だから鍋でもなんでも、さっぱりとした塩味が好みだったんだけど、ここで食べた味は、どれも甘みにしつこさやえぐみみたいなものがなくて、やさしくて、絶妙で、そっとした感じで、どれもうまかった。
歳を重ねてこういう味を好むようになったのか、今までおいしい甘さを知らなかっただけなのか、ここが特別うまいのか、わからんけど、うまかった。とにかく、うまかった。わからんでええ、と思った。
そんでまた、漬物をボリボリボリボリやって、玉露で締めて、最後までおいしゅうございましたよ。
ああ、これ書いてたらまた食べたくなってきたあ!つづく。
☞ ずっと睨んでくるドラゴンと、水琴窟に広がる宇宙〈京へ西へ。その十三〉