前回☞ やさしいやさしい甘み。食べ物がうまいっていいもんです。生きている証のようなもんです。〈京へ西へ。その十二〉

さて、うんまい朝飯を食って腹が膨らんだので、部屋でのんびりしたいところだけども、今日は宿を移るので、そんなに時間がない。

あまりに素敵な宿と女将さんのおもてなしに後ろ髪を引かれつつ、木屋町を後にして、京都駅へ向かいました。

コロコロキャリーバッグを引っぱりながら、三十分くらいは歩いたのかな。けっこう疲れててね、なんか気持ちもモヤモヤする。

昨日は一日、直感が冴えまくって、いろんなものから何かを感じて、視野を広げて、人生を俯瞰できて、おいしいもん食べて、最高の、本当に最高の一日だったのに、おかしい……なんか、モヤモヤ……、不安とまではいかないけど、心が曇ってる。悟ったと思ったのに笑!

今日の宿は、京都駅の近く、東本願寺の真向かいにある、和モダンでスタイリッシュなホテル。とりあえず荷物をあずけて、すぐに出立。

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この日は、予定がギッチリだったの。鴨川の西には、行きたい場所がいろいろあって、最初っからアレコレ決めてたから、モヤモヤしたんだろうね。それはある。

決まってる、決めてると、見たり感じたりっていうのが、制限されるからね。時間とか気になって。心が自由じゃないと、やっぱちょっと違和感がある。

そんなことを考えながら、まずは京都駅から山陰本線に乗って、花園駅で降り、妙心寺へ。

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妙心寺ってのは、なんの前知識もなかったんだけど、親父が死んで葬式をやるときに調べたら、うちの宗派が〈臨済宗妙心寺派〉だったの。

臨済宗ってのは、曹洞宗と並ぶ禅宗だから、禅が好きなオレはなんか運命めいたものを感じてね、総本山があるっていうんで、自分のルーツを見てみよう、って感じでさ。

駅からちょっと歩いて、妙心寺に着いて、おったまげたよ。おったまげて、笑っちゃったよ笑。

デカいの、めっちゃくちゃ、デカい、広い、敷地がクソでかいのよ!

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後でお寺のおばちゃんに訊いたら、甲子園が七、八個は入る大きさだっていうんだから、参っちゃうよ。

寺っていうか、ひとつの街だよね。城下町みたいな。

そんだけ広いから、場内を車とか、郵便の赤いカブがふつうに走ってたからね。

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境内には、いくつもの庵があってね、それぞれ立派な門があって、庭園があって、建物があって、それぞれにお坊さんがいるってことでしょ。

で、ひとつの庵の門をくぐってみたんだけど、ココは庭園が抜群に綺麗でさ。

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ホント、京都ってのはどこへ行っても、とてつもねえ場所ばっかりだな、なんてトボトボ歩いてたら、水琴窟(すいきんくつ)ってのがあってね。

見てみたら、この竹の筒に耳をつけてみろって書いてある。

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せっかくだから言うとおりにしてみたらね、キラキラ、澄んだ、鈴の音のような、なんとも形容できない、ガラス質の、透明感のある、幻想的で、水が広がっていくような、そんな音がするの。

音自体はどんなんだったかもう忘れたけど、とにかく澄んでいて、クリアで、耳に心地よくて、オレ……そんとき、

宇宙だ……。

って、思った。

庭に、宇宙が、ある。

昔の人は、庭に、宇宙をつくろうとしたんだ、スゲえや……!

って、目を輝かせてた。

ここで言う〈宇宙〉って、前澤さんが行こうとしてる俺らの上にあるスペースってのとも違うし、スピリチュアルの文脈で言うそれともちょっと違う、この世界のすべて、この世のすべてって感じかな。

わからんけど、すっと、まっすぐ、——宇宙がある、って思ったんだな。

今より娯楽も文化も技術も比べものにならなかったような時代に、こんなもんをこしらえちゃうんだもんな、人間は。

現代のIMAX 3Dとか、チームラボのやつとか、昔の人が見たらおったまげるだろうけど、逆に、こんな自然の庭園のなかにこんな宇宙が広がってたら、これはこれでおったまげるね!

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どこを歩いてもやっぱりとんでもねえや、なんて思いながら、敷地の広大さに圧倒されながら、一人トボトボと歩いていると、雲龍図の看板が目に入ったので、見学を申し込んだ。

そこの見学っていうか、拝観は、ガイドさんが引率してくれて、いろいろ解説してくれる二十分くらいのツアーになってるのよ。

法堂(はっとう)っていうドデカく荘厳な建物に入ってね、天井に、ものごっつデカい雲龍図があって、というか、十年ちかくかけて描いたドデカい絵を吊って、天井にしたらしいんだけどね。

もうね、言葉じゃ説明できない迫力よ。説明しようとしたら、ドデカい!とか、スゴい!とか、おバカな言い方しかできん。

ガイドさんの指示で、部屋を歩いて回るの。そうすると、見る位置によって、龍の表情とか、目つきとか、顎の長さとか、そういうのが変化して、それが計算されてるっていうんだから、圧倒されますよ!

「八方睨み」っていう技法らしいね、今ググったら。

あんなもんに天井から睨まれて、どこへ動いても、違う顔で睨まれたら、そりゃビビったでしょうよ。

柱もスンゴクて、周囲2メートルの超絶ぶっとい柱が立ってるんだけど、コレ、ケヤキの原木を縦に四つ割りにしたものなんだって。てことは、原木はもっともっと太いのかよ!と。

三百年も前に、そんなドデカい樹を、富士山麓で伐採して、海路で京まで輸送したっていうんだから、おったまげしかないでしょ。

ちなみにココは重要文化財で撮影禁止なので、写真はないよ。

ググったら出てくるけど、写真じゃぜんっぜん伝わらないわ。そりゃそうだよ、あの大きさ、あの迫力、あの冷たい法堂の感触が、感じさせるものだからね。

法堂を出たら、次は〈浴室〉、つまりお寺のお風呂へ移動して、またいろいろ説明してもらって。

ココは、明智光秀が信長をやっつけてから逃げこんだ寺で、明智風呂って呼ばれたりもするんだって。

いわゆる蒸し風呂で、サウナみたいなね。でも三百年前だから、隣接した井戸から水を汲んで、大釜で湯を沸かし続けて、相当大変だったはずだよ。

湯の用意ができたら、鐘を鳴らしてね、広大な場内にいるお坊さんたちが、その音を聞いて、寒いなか、風呂敷を手に続々と集まってきたと、そういう風景が、ありありと浮かんだね。

風呂っていう、今のオレたちと変わらない風習の、昔のリアルを目の当たりにすると、感慨深いもんがある。オレ風呂好きだからね。風呂が心地よい、って感覚は、いつの世も変わらないと、遠い目をしていたよ。つづく。

☞ 見よう、わかろうと、すればするほど遠ざかる枯山水。龍安寺〈京へ西へ。その十四〉

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