朝十時くらいに家を出てね、箱根へ行ったの。
ママは車でパン教室行っちゃうし、オートバイでもよかったんだけど、なんだか気分で電車に乗ってトコトコと。電車だと気まぐれで動けるからいいでしょ。
まず茅ヶ崎から小田原まで出て、街を歩いてね。東口の商店街をぷらぷらと。好きなんだよね、あの辺の、ちょっと寂れた観光地の佇まいが。観光客向けの海鮮料理屋なんかと、地元向けの安い中華屋さんなんかが混在しててさ、虚ろな顔してパチンコ屋に並ぶおっちゃんとか、暇そうに歩いてるおばあとかがいて、独特の風情がある。
そんで、駅前の知らないラーメン屋に入って、常連みたいな顔して注文して、地元の人みたいにさっと食って出てくの。
で、小田原から箱根登山線に乗って箱根湯本へ。もうこのへんにくると観光気分だよね。家から一時間くらいで、旅情が出はじめて、わあってなる。
湯本の温泉施設を巡回するバスなんかもあるんだけど、せっかくだから歩いてみようって。でもなめてたね笑。距離にしたら三十分くらいの場所なんだけど、もう歩きながら顎が地面に着いちゃうんじゃないかってほどの急斜面で、くねくねしてて、旧道で抜け道になってるんだか、乗用車にバス、ダンプまでバンバン走ってて、玉の汗が浮いちゃったりして、犬みたいに舌出してがんばって登ったよ。
登山と一緒で、苦労して登った先には極楽が待ってる。日帰り専門の温泉で、とくべつ立派だとかそういうところじゃないんだけどね、休憩できる有料の個室があるから、箱根の湯に浸かってリラックスすれば、右脳がぎゅるぎゅる回ってなんかできるかなってMacBook持っていったんだけど、できるわけないよね笑。汗だくで登って、温泉に身を浸して、ビール一杯吞んだら、畳でぐーぐー寝ちゃったよ。そりゃそうだ笑。
いやあ、無意味な小旅行だったね。無為、っていうかさ。ただ行って、風呂入って、畳で寝て、夕方になってまた帰るって。でも、そうなんだよね。ただ、そういうこと。
ここが、星野リゾートのセンスのいい旅館だとか、料理が抜群だとか、こうワクワクする付加価値がある場所なら別だけど、日常の外にはあるけれども、とくべつでないそんな感じが、無為と虚無、みたいな、しんみりと感じるものがある。
__ああ、日頃俺は、いろんなことに意味を見いだそうとして窮屈に生きてるんだなあ、なんて思っちゃったりしたよ。
旅行をしてリフレッシュして、また日常を能動的かつアクティブに生きるんだ、とか、なんにせよ目的があって、俺ってやっぱどっかで意識高いのね。マジメなんだな笑。
でもこういう無為なことをやると、左脳や善悪から解放されて、ああって力がぬける。
__知らない街でラーメン食って、汗だくで歩いて、温泉に浸かって、ビール飲んで畳で寝て、帰ってくる。ただ、それだけ。人生って、生きるって、そういうもんじゃん、なんて大げさに感じたりして。
で、夜はママと駅前で待ち合わせしてちょっと吞もうか、って話になって、どこ行きたい?ってLINEしたら、__お洒落じゃないところ、ジョッキビール吞みたい、って返ってきて、膝を打ったね。
うん。わかる。そういうときあるよな。青山あたりの洗練されたセンスのいい店に行きたいときもあるけど、もうそんなのどうでもいいから焼き鳥と煮込みとポテトフライとビール!ってとき。ちょうど、二人の波長が合うそんな夕暮れでね。大衆居酒屋の暖簾をくぐってね。いい夜だったよ。