Brooklyn Street / Bob Jagendorf
僕がいちばん好きな映画は、『SMOKE(スモーク)』というアメリカ映画だ。
主人公はニューヨーク・ブルックリンの小さな煙草屋の店主オーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)。彼は毎朝きっかり同じ時刻に、店の前の同じ場所で、そこから見える街の様子を写真におさめる。
常連客の小説家ポール・ベンジャミンはある日、オーギーが1年365日休まず撮影した写真が貼られたそのアルバムをめくって、涙とともに崩れ落ちた。
そこには数年前に亡くなったポールの妻が颯爽と朝の街を歩く姿が写っていたのだった。
ポールは、亡くなったまさにその日の朝に街を歩く妻の姿を見て心を打たれ、妻の死以来失っていた活力がすこしずつ戻っていく。
先日、『父親が亡くなって1年が経って思う、「家族との写真を残す大切さ」を皆に伝えたい! » むねさだブログ』という記事を読んで、僕はこのポール・ベンジャミンの話を思い出した。
Couples / Grim Santo
オーギーが毎日切りとる街の写真には、平凡な日常しか写っていない。ポールの妻だって、知らない人から見れば一人の街ゆく女性にすぎない。
だけどその平凡な、そんなに大切でもない日常の一瞬をとらえた写真が、家族や友人にとっては、いつかかけがえのない一枚になるということを、オーギーの定点観測は教えてくれる。
僕も記念日にはなるべく家族や友人たちと写真を撮るようにしているけど、入学式とか運動会とかキャンプとか、そういった特別な場所で撮影した写真よりも、いつも暮らしている日常の場所で撮った写真のほうが、後で見返したときに胸に迫るものがある。
その人が生活していた空間にこそ、その人の温度が宿る。それがもう二度と会えない人であれば、感慨はひとしおだろう。
Macの内蔵カメラで写真を撮影する『Photo Booth』というアプリを使うと、過去の自分や家族に出会うことができる。僕の書斎のiMacは何年も場所を動かしていないので、オーギーが撮るのと同じ定点写真がたくさん残っている。
同じ場所で撮影された写真には、季節の移ろいや子どもの成長などの、時の流れだけがくっきりと写りこむ。今よりすこし若い自分の顔や小さかった子どもたちの顔を見ると、それだけで熱いものがこみあげてくる。
最近は、週末にPhoto Boothを使って家族全員で集合写真を撮るようにしている。家族5人がMacの前に、頬を寄せあうようにしてへばりついて、一枚だけシャッターを切る。
いつも笑っていた無邪気な長男も、中学生になってからはかっこつけてそっぽを向いたりしている。
時がゆき、季節が移ろい、少しずつ変わっていく僕らの写真は、きっといつかかけがえのないものになるだろう。
The Bells. / ianmunroe
父親が亡くなって1年が経って思う、「家族との写真を残す大切さ」を皆に伝えたい! » むねさだブログ | むねさだブログ
「モノクロならいい写真が撮れるとでも思ったかい?」とあいつは言った。『Hueless』 | KLOCKWORKs