Metz
Metz / gaku.
 

今日は、久しぶりに現場仕事に出た。

池袋など都内の、決まった店舗に荷物を運ぶ、いわゆるルート配送というやつだ。

うちが担当している店舗はどこも駅前の繁華街にあるので、トラックを駐めるのはなかなか大変。それに加えて最近は駐車禁止の取り締まりが本当に厳しい。

また以前のように、取り締まるのがお巡りさんだったら「早く終わらせてよ」なんつっておおめに見てくれたものだけど、最近は民間の監視員がやっているので、きっかり三分で切符を切られちゃう。

切符も専用のモバイルデバイスで発行するので、その場でセンターにデータが送られるため、いくら抗議したって後の祭り。なんとも世知辛い世の中である。

 

とは言っても、ルールなんだからしょうがない。

居酒屋やいかがわしいお店の並ぶ一方通行の狭い繁華街の路地裏に、トラックを押しこんで、パーキングメーターのある場所に駐車する。

けれど、そういう場所はいろんな業者さんがひっきりなしに納品してるので、タイミングが悪いと何十分も待機したり、待つ場所がなければ、ぐるぐる同じところを回ってなくちゃならない。

今日もぜんぜん空いてなくて、しばらくうろうろしてたんだけど、一台だけ業者の車じゃなくて乗用車が駐まってたんだよね。誰もが知ってるドイツの高級外車。色は品のいい白。

でもそこは、貨物用の駐車スペースだったんだ。

PhoTones Works #689
PhoTones Works #689 / PhoTones_TAKUMA
 

しばらくしたら、その車の運転手さんが帰ってきた。

身体に合った細身のスーツを着こなした、けっこうイケメンの中年男性。物腰のやわらかい、けれど仕事ができそうなビジネスマンといった感じの。

運転席に乗りこんでエンジンをかけたので、発車するのかと思って待っていたんだけど、なかなか出ていかない。

僕は遠慮気味に窓をノックして、「すいません、あとどれくらいかかりますかね?」と訊いた。

男性はスマホをいじってたんだけど、ちらっとこちらを見やって、またすぐにスマホに目を戻した。

「あの、急かしてるわけじゃないんです。どれくらいかかるかな、と思って……」と言うと、ボソボソと何か言った。でも窓が閉まっているので聴きとれないし、あいかわらずこちらを見ていない。

正直この時点で、僕はかなりイラッとしてしまっていたんだけど、こんな僕だってもう大人である。冷静を装って、もう一度訊く。

「すいません、聞こえないんですけど……」と言いながら、窓を開けるジェスチャーをする。

男性は僕から目をそらして、また同じように何か言った。でもやっぱり聞こえない。

男性がどんな人なのかはわからない。わかる必要もないだろうし、僕は仕事をまっとうしたいだけだから関係のないことだ。

せめて、もう少しだけ車を前に出してくれれば、後方の駐車スペースにどうにかトラックを入れることができるかもしれない。

「すこしだけ、前に出てもらうことはできませんか?」僕は半ば無視されていたけれど、ひるまずに言った。

男性はスマホをいじる指を止めもせず、目を上げることもなく、今度は完全に僕を無視したのだった。

つづく……。

2014年2月20日午後6時42分。リビングのソファにて。今日はビールが呑みたいなあ。

 

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