いつものように海辺を歩いていると、砂浜に二つの人影が見えた。
青年は膝を抱えて肩を震わせていた。女は隣に座って海を見つめていた。
どんな季節でも雨さえふっていなければ、昼さがりの砂浜には一人や二人は誰かがいるものだ。
見知らぬ青年の背中から、哀しみが僕のところまで流れてきた。
彼がなぜ泣いているのかなんてわからないけど、その哀しみの質や肌触りは理解できるような気がした。いや、哀しみの肌触りなんてみんな同じだ。
「なんでこんなに哀しいんだろうな」僕は心の裡で彼に声をかける。
「君は海辺で泣いている。哀しくて、哀しくて、哀しくて。けれど僕は君の肩を抱いたりはしない。君を励ましたりもしない。だって君は見知らぬ他人だから。きっと君の隣に座っている女性が何もしないでいるのは、君にとってそれが一番やさしい行為なんだって、彼女もわかっているからなんだろう」
誰もがいつだって笑っていたいと願っているはずなのに、いつもどこかで誰かが哀しんでいる。
僕には何もできないけど、心の中ではガンバレって言っているよ。それだけ彼に伝えたかった。
哀しいとき、人はやさしくなれる。
僕はこれまでの人生で傷つけてしまった人を思い出して、唇を噛みしめた。
人を無意識に傷つけてしまうのは、いつだって誰かに傷つけられた人だから、あの人たちが誰かを傷つけていないことを願う。自分勝手だとは思うのだけど。